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カリフォルニア州弁護士コラム「囚われの身の恋バナ」(2)_966

法律ノート 第966回 弁護士 鈴木淳司
Nov 25, 2015

 前回の続きです。水洗トイレの水流を止め、夜な夜なA子さんは、コンクリートの床というか天井で仕切られた恋人と将来の話をします。時間はたっぷりあります。というか、他にこれといって刺激がありません。西海岸の彼氏らしき人は、A子さんにまったく連絡もしてきませんので、優しい言葉をトイレ電話でかけられると、A子さんの恋心はさらに燃え上がるのです。

カリフォルニア州弁護士コラム「囚われの身の恋バナ」(2)_966

 判決が言い渡されました。現行犯逮捕ですから、まず情状酌量を願って、最小限度の有罪を認めることで事件は解決しました。

 通常のアメリカ人であれば、執行猶予がつくのでそのままJailから出られるのですが、A子さんは留学生です。判決時に移民局が待っていました。

 私が何度言っても、A子さんは、恋人と話をしていて、舞い上がり、もうすぐ彼氏と会えると信じていたようです。弁護人の話は冷静に聞くべきです。

 身柄が拘置所から移民局に移されるときになって、A子さんはどんなに彼を愛しているのか、涙しながら話しをしてくれました。どうしても結婚したいというのです。

 A子さんは、「彼ってとても私が好きな匂いがするんです」とか「彼ってとても絵がうまいのです」などと語ってくれます。しかし残念ながら、学生ビザを保持する外国人が逮捕勾留されてしまうと、継続的に勉学を続けていないと判断され、移民法違反になります。

 また、米国移民法においては、売春と麻薬は外国人が強制送還となる最たる事由でもあります。ん?移民局に身柄を引渡される寸前、私はA子さんに「匂いがどうとか、絵がうまいとかって、どういうことなの」と聞き、惚れた腫れた2人の行動を聞いてかなり驚いた覚えがあります。

拘置所内での文通に成功していたA子さんと男性

 まずA子さんと男性が何通か手紙をやり取りしていたのです。もちろんJail内にいる収監者間の通信は保安上の理由から許されていません。当たり前です。脱獄の相談をしているかもしれませんからね。

 どうやっていたのか問い詰めると、歯切れが悪いのです。若干詰問しました。まずA子さんは彼に宛てた手紙を書くわけです。それを封筒にいれるのですが、封筒の宛先はデタラメな宛名と住所を書きます。そして、返信先を彼にしておくわけです。そうすると、時間はある程度かかりますが、宛先不明で戻ってきた封筒は彼に届くのです。

 もちろん拘置所において、弁護士との通信以外の内容を検閲することはやっているのでしょうが、検査がゆるいのかもしれません。その方法を使って、A子さんは、彼と見事文通に成功していたと白状しました。

図書館を使って互いの下着を交換

 もう一つ、納得がいかなかったのは、お互いの「匂い」が好きなのだ、とA子さんが言っていたことです。収監されている男女が接触することはまずありえません。これについても説明をしてもらう必要がありました。

 二人はお互いの匂いを確かめる方法がないかを夜な夜な「トイレ電話」を使って協議していました。マッチョな男性がA子さんに言います。「図書館の◯◯辞典の第△巻目の間に下着を挟んで入れておいてくれ。」

 次の日、A子さんが図書館を使える時間になると、A子さんは自分の履いていた下着を指示のあった辞典のなかに挟んで入れておきます。次に男性が図書館を使用できる時間になると、男性は◯◯辞典の第△巻目を開き、人目を憚りながらA子さんの下着の匂いを嗅いで、たぶん眼を細め、遠いところをみつめながら、A子さんのことに思いを馳せます。

 そして、その男性は自分の履いていた下着をまた別に示し合わせていたところに挟み込みます。次にA子さんは、許可された時間に図書館に行ったとしても、本を読むことはしていないはずです。

強制送還されて1年後のA子さんは

 強制送還をされたA子さん本人から、再度連絡があったのは1年ほど経ってからでした。会話のなかで私は頃を見計らって、例のJailにいた彼とはどうなったのか、聞いてみました。彼女は鼻で笑いながら「そういえばそんな話もありましたね」と言っていました。

 それで用件の本題を聞いてみると、今度、今付き合っているアメリカ人男性と結婚してアメリカに行きたいということを言い始めました。過去、麻薬の罪に問われている場合、ビザや永住権の発給のハードルはかなり高いわけです。入国が難しくなっていることを伝えても、彼女はくじける様子はありませんでした。

 さすがにもう良い歳になっていると思いますが、恋多きA子さんが落ち着いて生活をされていることを願っています。少なくとも英語はお上手だったので、それを活かして仕事をされているとか、結婚されているとか。


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カリフォルニア州弁護士コラム「囚われの身の恋バナ」(1)_965

法律ノート 第965回 弁護士 鈴木淳司
Nov 15, 2015

 私が所属する事務所には刑事事件を専門に扱っている弁護士もいることから、刑務所での出来事というのは、それなりに耳に入ってきます。最近服役している方から、ある依頼があったのですが、その依頼がきっかけとなり、かなり昔に私が受任した薬物事件を思い出しました。思い出深い話なので、今回皆さんにも読んでいただこうと思いました。

カリフォルニア州弁護士コラム「囚われの身の恋バナ」(1)_965

 日本からアメリカ西海岸に留学をしていたA子さんは、勉強よりも遊びに忙しく、現地の彼氏との時間が楽しくてしょうがありませんでした。その彼氏は、中南米から来た陽気な人で、薬物もよく使っていました。

 ある日、その彼氏がA子さんに頼み事をしました。西海岸から東海岸にスーツケースを運んでほしいという頼みです。かなりの額の「お小遣い」をもらったA子さんは、東海岸に飛行機で飛びました。A子さんは無事にスーツケースを回収し、タクシーに乗って、指定されたグレイハウンドの長距離バスターミナルに向かいました。

 バスターミナルでウロウロしていたところ、FBIの捜査官に職務質問を受けます。後に私が読んだ警察の調書では、A子さんがスーツケース一杯のマリファナを持って、空港でのチェックインや荷物の受渡しをすり抜け、バスターミナルまで来たことは驚きだ、と書いてありましたっけ。A子さんは、荷物や思い出をすべて西海岸に残したまま、東海岸で勾留されました。

 ある大きな企業の親族がいた伝手で、依頼を受けた私は終局的に無事に事件を解決しましたが、事件が係属している間、A子さんは移民法の関係もあり、身柄を拘束され、現地の拘置所にいました。A子さんは、留学生で米国に家族もいないため、よく私の所属する事務所に電話をしてきました。

「拘置所内にいる男性と結婚をしたい」と言い出したA子さん

 ある日の電話でA子さんは、拘置所内にいる男性と結婚をしたい、と私に言ってきました。もちろん刑務所内にいても結婚できないことはありません。結婚することは憲法で認められた権利です。

 しかし不思議です。A子さんの収監されているところは、まだ裁判が終わっていない人、すなわち未決勾留者と、判決を受けて服役をしている人たちが混ざっているJailと呼ばれるところですが、男女は混ざっていません。A子さんは結婚したい彼氏と、はっきり「Jail内で知り合った」と言っています。

 しかし男女別々のフロアーで生活しているわけですし、収監されている間は接触することは一切できません。

トイレで会話をしていた二人

 拘置所にいって彼女に直接会ったときに、この「結婚したい人」について詳細を聞いてかなり驚きました。

 まず、どうやって出会ったのかというと、女性の収監されているフロアーは男性が収監されているフロアーの一階うえに設定されていました。私も何度か訪れたのですが、別に古い建物ではなく、収監をするだけあってかなり堅牢な建物でした。

 当たり前ですが。A子さんの話では、毎晩会話を楽しんでいるということなのですが、どうやって会話しているのか問い詰めると、トイレで会話をしているというのです。

 ある日トイレで用を足して流すと、下からガンガン音が聞こえています。パイプを叩いているわけです。また大声が聞こえます。トイレの管は下の階とつながっているので、指示にしたがって水の流れを止めると、まるで糸電話のように話ができるようになりました。

 かなり暇な勾留中に異性と話ができるとなれば、若いA子さんにとっては話が弾まない訳はありません。見たこともない、男性とトイレに顔を近づけて、暇があれば会話を続けます。

男は中庭からA子さんに手を振り…

 男はA子さんに言います。A子さんの独房から中庭が見えるのですが、「俺は朝◯時から、中庭でトレーニングをする。手を振るから見てくれ。」と。手を振る男を見たA子さんは、自分の「好み」であって、男に入れ込むのには時間はかかりませんでした。

 吐いたツバが凍るような冬の日に、男は鍛え上げた体を上半身むき出しにして、A子さんの見ているであろう窓に向かってポーズを取っているのです。よくやりますね。基本的に暇を持て余している2人はトイレのパイプを使ってかなり接近していくわけです。

 男女が非日常の状況で盛り上がると、これはかなりの力になりますし、知恵も働くようになります。A子さんとこの男性の絡みは、トイレ話では飽き足りません。

 皆さんからいただいている法律の解説というよりは法律家の体験談的な内容にまたなってしまいましたが、次回もぜひお付き合いください。次回もう少し、Jailでの愛の育みを考えていきましょう。


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