法律ノート 第965回 弁護士 鈴木淳司
Nov 15, 2015
私が所属する事務所には刑事事件を専門に扱っている弁護士もいることから、刑務所での出来事というのは、それなりに耳に入ってきます。最近服役している方から、ある依頼があったのですが、その依頼がきっかけとなり、かなり昔に私が受任した薬物事件を思い出しました。思い出深い話なので、今回皆さんにも読んでいただこうと思いました。
カリフォルニア州弁護士コラム「囚われの身の恋バナ」(1)_965
日本からアメリカ西海岸に留学をしていたA子さんは、勉強よりも遊びに忙しく、現地の彼氏との時間が楽しくてしょうがありませんでした。その彼氏は、中南米から来た陽気な人で、薬物もよく使っていました。
ある日、その彼氏がA子さんに頼み事をしました。西海岸から東海岸にスーツケースを運んでほしいという頼みです。かなりの額の「お小遣い」をもらったA子さんは、東海岸に飛行機で飛びました。A子さんは無事にスーツケースを回収し、タクシーに乗って、指定されたグレイハウンドの長距離バスターミナルに向かいました。
バスターミナルでウロウロしていたところ、FBIの捜査官に職務質問を受けます。後に私が読んだ警察の調書では、A子さんがスーツケース一杯のマリファナを持って、空港でのチェックインや荷物の受渡しをすり抜け、バスターミナルまで来たことは驚きだ、と書いてありましたっけ。A子さんは、荷物や思い出をすべて西海岸に残したまま、東海岸で勾留されました。
ある大きな企業の親族がいた伝手で、依頼を受けた私は終局的に無事に事件を解決しましたが、事件が係属している間、A子さんは移民法の関係もあり、身柄を拘束され、現地の拘置所にいました。A子さんは、留学生で米国に家族もいないため、よく私の所属する事務所に電話をしてきました。
「拘置所内にいる男性と結婚をしたい」と言い出したA子さん
ある日の電話でA子さんは、拘置所内にいる男性と結婚をしたい、と私に言ってきました。もちろん刑務所内にいても結婚できないことはありません。結婚することは憲法で認められた権利です。
しかし不思議です。A子さんの収監されているところは、まだ裁判が終わっていない人、すなわち未決勾留者と、判決を受けて服役をしている人たちが混ざっているJailと呼ばれるところですが、男女は混ざっていません。A子さんは結婚したい彼氏と、はっきり「Jail内で知り合った」と言っています。
しかし男女別々のフロアーで生活しているわけですし、収監されている間は接触することは一切できません。
トイレで会話をしていた二人
拘置所にいって彼女に直接会ったときに、この「結婚したい人」について詳細を聞いてかなり驚きました。
まず、どうやって出会ったのかというと、女性の収監されているフロアーは男性が収監されているフロアーの一階うえに設定されていました。私も何度か訪れたのですが、別に古い建物ではなく、収監をするだけあってかなり堅牢な建物でした。
当たり前ですが。A子さんの話では、毎晩会話を楽しんでいるということなのですが、どうやって会話しているのか問い詰めると、トイレで会話をしているというのです。
ある日トイレで用を足して流すと、下からガンガン音が聞こえています。パイプを叩いているわけです。また大声が聞こえます。トイレの管は下の階とつながっているので、指示にしたがって水の流れを止めると、まるで糸電話のように話ができるようになりました。
かなり暇な勾留中に異性と話ができるとなれば、若いA子さんにとっては話が弾まない訳はありません。見たこともない、男性とトイレに顔を近づけて、暇があれば会話を続けます。
男は中庭からA子さんに手を振り…
男はA子さんに言います。A子さんの独房から中庭が見えるのですが、「俺は朝◯時から、中庭でトレーニングをする。手を振るから見てくれ。」と。手を振る男を見たA子さんは、自分の「好み」であって、男に入れ込むのには時間はかかりませんでした。
吐いたツバが凍るような冬の日に、男は鍛え上げた体を上半身むき出しにして、A子さんの見ているであろう窓に向かってポーズを取っているのです。よくやりますね。基本的に暇を持て余している2人はトイレのパイプを使ってかなり接近していくわけです。
男女が非日常の状況で盛り上がると、これはかなりの力になりますし、知恵も働くようになります。A子さんとこの男性の絡みは、トイレ話では飽き足りません。
皆さんからいただいている法律の解説というよりは法律家の体験談的な内容にまたなってしまいましたが、次回もぜひお付き合いください。次回もう少し、Jailでの愛の育みを考えていきましょう。
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