法律ノート 第1301回 弁護士 鈴木淳司
February 13, 2022
冬のオリンピックを皆さんご覧になっていますか。
私も時間があるときに観ているのですが、自分でやったことがない競技ばかりで、本当に「すごいな」とは思うのですが、自分の体験にないことばかりです。
競技の勝ち負けが審査の裁量に任されているものが多いので、ツボがイマイチ理解できていないのが悔しいです。
カーリングについては、色々観ながら教えてもらい、少しわかるようになってきました。色々自分の知らない奥深いことがあるものですね。
アメリカ信託リビングトラスト(2)_1301
さて、前回から考えてきた「カリフォルニア州に家族で永住しています。日本の不動産を相続することになりました。アメリカですでに20年ほど前にトラスト(信託)を作成していることから、このトラストに日本の不動産を組み込むことはできるのでしょうか」という質問を続けて考えていきましょう。
どの州であってもトラスト登記は可能
トラストというのは、アメリカ合衆国内では各州相互に認められているということを前回考えました。
ですので、アメリカ国内であれば、どこの州のトラストであっても基本的に登記はできるわけです。
では今回質問にあるように日本にある不動産はアメリカのトラストで登記できるのでしょうか。
日本の受託財産の登記
日本でも、最近では家族信託ということで、不動産を受託財産として設定できるようになりました。
登記簿において、甲区所有者欄に「受託者」○○、という形で信託が表現可能となったのです。
ただ、家族信託と日本でいっても日本の法律に基づいた信託であって、すぐに日本とアメリカの信託が相互に適用される現状ではありません。
信託の国をまたぐ相互補完は道半ば
今後は、日本の家族信託もアメリカのように変容していくのかもしれませんが、特に不動産については国ごとで登記のシステムも異なっているので、相互に外国の信託を認めるというのはなかなか進まないかもしれません。
アメリカの視点から見ると、外国の財産については、税法で全世界の財産開示を義務付けることが基本になっています。
しかし、税法は金額に重きが置かれているのであって、権利義務関係そのものが問題になるわけではありません。
そして、アメリカにおいて信託は連邦法ではなく、各州の管轄になりますので、州裁判所が実際に外国の不動産についてどこまで判断を及ぼせるのか、不透明であります。
また、日本の不動産の情報をすべて翻訳してアメリカに持ち込んだとしても、州裁判所の能力で正しく理解して、判断できるかは不安が残るところです。
不動産は所在地のルールが最優先
不動産は基本的にその不動産が所在する場所のローカルルールに支配されます。
したがって、今回質問にある、アメリカの信託に日本の不動産を組み込むということは不透明な部分が多く、現時点では避けておいたほうが良いというのが一般的な考えになります。
トラストに向けて現時点でできることは?
そこで、現時点ではどのように対応するべきでしょうか。
具体的に専門家に相談をするのが一番手っ取り早いとは思いますが、指針を示しておくと、まず、不動産がどこにあるのかが重要になります。
そして、その不動産にどの国のどの法律が適用されるのか、確認する必要があります。
とくに登記関係はどのように設定されているのか調べなければなりません。
そのうえで、登記が許されている信託名義はどのような形なのか確定します。
このように不動産から辿って、どのような法律が適用されるのか特定してから信託を作成するべきです。
複数の信託もうまく設定することができますので、一つの信託ですべてを網羅しようというスタンスは今回の質問者のかたはやめておいたほうがよいかもしれませんね。
不動産というのは、流動資産である現金や株などに比べて特殊な面がありますので、信託に不動産がかかわる場合にはやはり専門家に相談するのが良いとは思います。
また、外国の不動産を所有することになると、信託だけではなくいろいろな面でコントロールの煩雑さがでてきます。
今後、どのように不動産を所有していくのか、良く考えてから相続関係の準備をしたいですね。
また、次回新しく頂いている質問を考えていきましょう。
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