法律ノート 第958回 弁護士 鈴木淳司
Sep 20, 2015
前回、質問をいったん休ませていただき、私が調停を仲立ちすることになったというところで終わりました。今回続けさせてください。
カリフォルニア州弁護士コラム「和解」(2)_958
さて、私は、ビジネスの利益分配に関する紛争の調停人として活動することになりました。今回は、「できるだけ早く解決したい」ということで急遽ホテルの部屋で行うことにしました。
当事者同士は、険悪になっているので、私がホテルの部屋を行ったり来たりしながら、各当事者から、話を聞き、両方の筋が通る部分、通らない部分を整理ながら、和解に向けて会話を続けました。リゾートホテルで話を聞いている私は、外にあるヤシの木を見ながら考えたりしていました。
陽が沈み、結局外には一歩も出ることなく8時間以上、辛抱強く話を聞き続け、法律的な意見を言い、自分の経験から色々語りました。途中、夜になると「もういい、裁判で決着する」と両当事者は言うこともありました。
私だってはやく一杯引っ掛けて、ベッドでゴロゴロしたいけど、お互い膝を割って話す機会はこれが、最初で最後かもしれないよ、と言いながら、議論を煮詰めていきました。お互いが「和解したい」という気持ちがあることを私は知っていましたし、お互いの主張の開きはあまり大きくなかったので、「粘ろう」と思ったのです。
和解は両当事者とも満足で終われることが多い
両当事者(と言っても、複数人が両方にいましたが)に疲労の色が濃くなってきました。もう午前2時をまわっています。それでも私はホテルの部屋の往復を続け、ようやく話がまとまりました。
かなり、両当事者は長い間ビジネスの関係を続けていたので、あれやこれや問題が出てきましたが、やっとまとまったのです。これが訴訟になっていたら、たぶん訴状だけでも、50ページにはなっていたであろうという内容でした。
和解する良いところは、両当事者とも満足で終われることが多い点です。今回、両当事者とも納得し、無事に解決することができました。訴訟になれば、両者合わせれば少なくとも弁護士費用を数十万ドルは覚悟しなければならない争いは、たった1日で終わったのです。
和解契約書の代わりにスマホの動画に内容を残す
遠山の金さんであれば、これにて一件落着で終わるのですが、現代の訴訟ではそうもいきません。通常、和解が成立すれば少なくともその場で和解契約書を作成しなければなりません。簡単な和解契約書を作成し、その後、正式な形を整えるというのがお約束であります。
私も今まで何度も、弁護士と裁判官の立場で和解契約書をつくってきました。ところが、和解が成立した時間は、丑三つ時です。いくらタフな私でもヘロヘロな状態になっていました。
しかし、何らかの形で和解の内容を残さなくてはなりません。疲れていても、名案がひらめいた私は自分のスマートフォンを取り出して、各当事者をビデオに撮りながら、和解の内容を復唱し、内容に疑義がないこと、内容に合意をすること、眠くても判断能力に問題がないことなどを確認しました。我ながらこの方法は「いける」と思ったものです。両当事者のビデオを私のスマホに収め、調停は終了しました。
当事者と別れ、私は自分のホテルの部屋に戻りました。眠気が去ってしまった私は、深夜に当事者の映ったビデオを見ながら和解契約書を作成し、寝たのは朝6時でした。疲れていましたが、争いをやめた両当事者の晴れた顔(かなり疲れてはいましたが)を見るのは法律家としての醍醐味だな、と感じて眠りにつきました。
クライアントの幸せを願って活動するのが弁護士
訴訟をしない弁護士というのは、私はよくわかりませんし、何が仕事として面白いのかよく理解できていません。では、法廷活動をやっているだけでも、良いのか、というとそうでは無い訳です。
あくまでも弁護士というのは、法廷を通じてクライアントの主張を認めさせるというのが役割ですが、ひいてはクライアントの幸せを願って活動をすることを考えなくてはなりません。裁判官をやっているときのように法律に基づく強制力は持っていない調停人ですが、私の経験が各当事者の幸せに直結できたわけです。
次回は皆さんからいただいている質問を考えていきたいとおもいます。秋を楽しみながら一週間またがんばっていきましょうね。
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