法律ノート 第1098回 弁護士 鈴木淳司
Feb. 28, 2018
インフルエンザではなかったのですが、風邪をもらってしまい、法律ノートを書くのも遅くなってしまいました。今年の風邪はしつこいようですね。ちなみに医学的には「風邪」という症状はないそうですね。とにかくインフルエンザ等には注意されてくださいね。
アメリカ他州へ旅行中の交通事故。裁判の管轄は?(2)_1098
さて前回からまとめると「カリフォルニア州在住の者です。家族でアメリカ国内を旅行していたときに交通事故に巻き込まれました。子供は英語が達者なので、力を借りながら相手方の保険会社と事故について自分で交渉を続けていました。しかし、フロリダ州で事故にあったのですが、一定期間を経過するともう請求ができなくなると周りから言われています。カリフォルニア州とフロリダ州では、交通事故の裁判をするかどうか決める期限が違うということを知りましたが、カリフォルニア州で裁判はできるのでしょうか。また、請求ができる期限についても、私達家族が住むカリフォルニアの法律が適用されるのでしょうか」という質問を考えてきました。
出訴制限期間(Statute of Limitation)とは
前回は、州にまたがった事件の場合どのように判断するのかを皆さんと一緒に考えたと思います。今回は、いつまでに被った損害を主張できるのかということを考えてみたいと思います。
よくみなさんは刑事モノのドラマをみると時効寸前に犯人逮捕、というシーンが出てくるのをご存知でしょうか。刑事事件にも公訴時効と呼ばれて、事件発生から一定の期間が経過するともう犯人を逮捕訴追できなくなってしまう制度が日本の刑事法にはあります。
よく、アメリカのドラマなどを日本語訳する場合、「時効」という訳を目にかけます。これは少々疑問がある訳です。アメリカでは、ルイジアナ州(ヨーロッパ大陸法の流れを汲んでいる)を除いては、イギリスの法体系を承継して利用しています。ヨーロッパ大陸法においては、時効という概念があるのですが、イギリス法系では「出訴制限期間」という言葉を使います。英語で言うとStatute of Limitationと呼びます。日本では比較的新しい法律、たとえば、行政事件訴訟法という法律に「出訴期間」という言葉がでてきます。
日本の時効とアメリカの出訴制限期間の違い
実際のところ、時効と出訴制限期間(以下、便宜のために「出訴期間」としておきます。)の概念がどこまで違うのか、というのはなかなか法律的にわかりにくいのですが、ここでは、ごく基本的な部分を考えて理解しておきましょう。
まず、時効とはどういうものなのでしょうか。長期間変わらない状態が放置されているとその放置されている状態が当たり前になってしまいます。人間の生活のうえで、長年放置されている関係をひっくり返すことも問題が発生しそうですし、何十年前のことを蒸し返されると関係者も困ることもでてきます。こういった事実関係が定着した場合その事実的な関係を尊重しようというのが時効の考え方です。
もちろん、他にもいろいろな考え方があるのですが、長期間継続している事実関係を尊重しようということなのですね。ですので、時効期間というのは一般的にかなり長く設定されています。
出訴制限期間は時効より短い
一方、出訴期間ですが、政策的な意味合いが強い制度です。一定期間権利を行使せずに放置していた場合、裁判所は取り合わない、という訴訟法的な意味合いが強い制度です。
英米法で発達してきた制度ですが、かなり短い期間が設定されています。たとえば、今回質問のある交通事故の事例ですが、カリフォルニア州の出訴期間は事故から2年、フロリダ州では3年と設定されています。
時効は、10年、20年と長期の設定がされることに比べるとかなり短い設定ですよね。考え方によっては事実関係がなくなるわけではないので、出訴期間が過ぎても、相手方に損害を払え、と裁判を通さずに言えそうです。
しかし、裁判所の助けを借りたい場合には、かならず出訴期間を厳守しなければなりません。弁護士も事件を受任するときに、まず出訴期間が過ぎていないかかなり注意して検討するものなのです。
アメリカにおける事件はほぼ、出訴期間が設定されていて、概ね短いものです。ですので、出訴期間については、何か法律問題があるときには、今回質問されている方のように注意されておくことが重要です。
次回新しくいただいている質問を考えていきましょう。皆さんも体調に注意してまた一週間がんばっていきましょうね。
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