法律ノート 第1159回 弁護士 鈴木淳司
May 9, 2019
歯の被せ物が欠けたので、歯医者に行ったのですが、技術の進歩にびっくりしました。私が経験していなかっただけかもしれませんが。歯医者に行き、歯を削って型をとり、その型を基にした被せ物ができてから再度歯医者に行くというのが一般的だと思っていました。
しかし、今回の治療は、歯の3Dスキャンをコンピュータで撮り、そのデータが歯を削り出す機械に送られ、できた歯はその場で窯の中で焼かれました。1時間も経たずに被せ物が完成し、全行程2時間で、また歯が復活しました。工程も見せてもらいましたが、すごいなぁ、と感心させられました。
それは「ハラスメント」か?(2)_1159
さて、今回は前回から考えてきた質問です。
「日本で5年ほど働いていたのですが、応募をして、今米国にある企業に3年ほど前から就職しています。まだ規模はそれほど大きくないテック関係の会社です。学生の頃、アメリカに住んでいたので、英語には困っていません。私の職場の上司がアジア系の方なのですが、いろいろな場面でパワハラに遭っています。仕事をちゃんとしても難癖つけられて何度もやり直しをさせられたり、大勢の前で恥をかかされたりすることもしばしばあります。同僚に相談しても、そういう性格だから気にするな、できるだけ無視をしておけ、というのが意見です。私もできるだけ、リモート(自宅勤務のことか?)で仕事をして、職場で顔を合わせるのを避けています。しかし、仕事に関しての嫌がらせとか難癖がエスカレートしてきているように感じますし、私自身もカウンセラーに相談をしています。職場には、直接相談できる人が実際いないので、困っています。このような場合に弁護士に相談して、なにか対応をすることが可能なのでしょうか」という質問を続けて考えていきましょう。
専門家による意見が必要
前回、カリフォルニア州で適用されそうな法律については考えました。今回いただいた質問を考えると、性的な問題はなさそうですし、はっきりハラスメントがあったかどうか、と言い切れないようにも思います。
カリフォルニア州においては、「パワハラ」というのは、限られた事例にあてはまります。実質的に重大な精神的な被害が発生したことが、一部では要件になるわけですから、単に不快に思う程度では足りません。
また、重大な精神的な被害というのも、自分が「重大だ」と思っているだけでは足りずに、必ず医師等の専門家により客観的な意見が必要になってきます。
今回の事例では、カウンセラーにも相談をされているということですが、自分の精神的な問題を相談されているのか、または職場での人間関係について相談されているのか、はっきりはわかりません。精神的な問題に関して相談をしているのであれば診断書が出される可能性があり、ハラスメントの主張が可能になるかもしれません。
自分だけで考え込まない
一方で、職場の人間関係についての対処法について相談しているという程度に限られるとハラスメントのクレームをするサポートとするには足りないかもしれません。
今回の質問の文面を見ると、一般的な使い方で「パワハラ」という言葉を使われているようですが、やはり一般的な人の感覚で「パワハラ」というだけでは法律的には事件化できないと思います。
こういった場合には、やはり他の職場の人に相談するなり、意見を聞くなり(カジュアルな方法で構いません)、他の人がどう考えるかを聞いてみたほうが良いと思います。とにかく、自分で考え込まない方が良いです。たとえば、仕事を押し付けられる、という主張については、そのこと事態だけではパワハラとは言えない可能性がありますので、周りの人達に対してはどのような処遇をしてきたのか、などを推し量る必要もあります。また、周りの人が揃って、「まあ通常の上司の対応だ」と言っている場合には、法律的に成立しそうな「パワハラ」にはならない可能性があります。
陪審裁判
アメリカでは、日本と違って事件が裁判になると、陪審裁判という制度に付されます。
そこでは、素人であるアメリカ国籍を持った人たちが12人いて、裁判における主張を検討します。
したがって、自分で「被害に遭っている」と思っていても、実際は最終的には12人の人達が客観的に見るとなんら被害がない、という判断をする可能性もあるのです。
ですので、自分が「パワハラ」に遭っているのではないか、という感覚を持ったのであれば、まず周りの人で信用できる人を巻き込んで、客観的な意見をもらうことがかなり重要になるのですね。
次回、もう一回続けて考えていきたいとおもいます。
新緑の季節です。外出を楽しみながらまた一週間がんばっていきましょうね。
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