法律ノート 第1020回 弁護士 鈴木淳司
August 16, 2016
週末から日本弁護士連合会の弁護士紹介サービスプロジェクトチームの同行をしています。
興味深い情報を私も聞くことができています。また、法律ノートでご紹介したいと思います。普段私も接しない法律の面が見られることは色々考えさせられますし、刺激にもなります。法律の世界というのは、多岐に渡るし奥が深いですね。20年以上携わっても、知らないことが多すぎます。
知り合いに貸した数万ドル、回収するには?ー少額訴訟[2]
さて、前回から考えてきた「ある人にお金を貸して欲しいということで、数万ドル貸しました。ところが、期限になっても一向に返してくれません。その人は貸家に住んでいるので、めぼしい財産があるかどうかもわかっていません。弁護士に相談したところ、判決を取ったとしても実際に現金が回収できるかわからないので、更にお金をかけて判決を取るということが難しいのではないか、という意見でした。
そこで、少額裁判制度を利用して、数回に分けて裁判をできないものでしょうか。
また、かりに裁判をして勝った場合、どのような回収をする方法があるのでしょうか。」という質問を続けて考えていきましょう。
少額訴訟と既判力
前回、カリフォルニア州においては、原則として1万ドルが上限である訴額を超える訴訟がある場合、小分けにして、1万ドル以下の訴訟を複数提起することは、法律の制度を潜脱するので難しいだろうということを考えました。
Res Judicataとか既判力といった難しい法律用語がでてきましたが、要約したうえで、理解をしていただけましたでしょうか。大体で良いので、小分けにする少額訴訟が難しいということは理解してください。
裁判に勝てば、かならず回収できるのか
次に今回は、かりに勝訴をしたとして、回収ができるのか、という問題があります。
これは、どのような規模の訴訟においても問題になるポイントでありますし、弁護士も訴訟をするうえでかなり重視することでもあります。要は、お金がない相手方からお金を取ることは難しいということです。
よく「お金が払えなければ刑務所に入れてください」という人もいますが、詐欺などかなり悪質であるということを裁判所において立証しなければ、刑事的に制裁をされることは単なるお金の貸し借りでは現実的な話ではありません。これは、日本ではアメリカでは共通の認識です。
訴訟の相手方の財産と名義
なので、訴訟の相手方にどれだけ財産があるのか、というのはかなり重要な問題になります。財産というのは、お金に換算すれば簡単に数字は出るのですが、世の中には色々な形の財産があります。
現金は一番わかり易いですが、不動産であったり、有価証券であったり、特許などの知的財産であったり、色々な形が存在します。勝訴した場合には、これらの財産を差押えていくということもあり得ます。判決がでて相手方に「◯◯ドル払え」という内容である場合には、強制執行が可能になりますので、財産があれば、それを追っかけるということになります。
ところが世の中というのはそれほど単純な話しではなく、相手方がいわゆる「金を持っている」といった状況でも、名義が会社やトラストになっていたり、家族の名義になっていたり、ということもあり、判決があったとしても回収がそこまで簡単にいかない場合も多々あります。
訴えた相手が立派な家に住んでいて、高い車を乗り回していたとしても、実はすべて自分のものではなかった、ということも十分にありえるわけです。
そうすると強制的に相手方から回収するのはかなり困難になるということも十分にありえるわけです。
まずは相手方の財産状況を確認
今回のような質問に関しては、いきなり短絡的に少額訴訟を提起するのは得策でないかもしれません。訴訟を提起する前に、しつこいくらいにお金を返すように催促し、同時に相手方にどのような財産があるか調べます。
調べる方法はいくらでもあります。探偵でも、弁護士でも情報を集められるところに相談すれば比較的安く情報は手に入ると思います。とにかく自発的にお金を戻して貰えればそれが一番良いわけですから、それを目指します。
それでも、お金が戻ってこない場合には、訴訟を検討するわけですが、可能であれば、相手方とする当事者は多ければ多いほど良いわけです。夫婦であれば、夫婦両方を巻き込みたいですし、会社を経営しているような状況だったり、トラストが絡んでいれば、そのような法人格を巻き込んでいく方が、回収の確率があがるということになります。
次回新しい質問を考えていきたいと思います。もうすぐアメリカでは夏休みも終わるので、季節替わりを感じる時期ですが、まだ暑いです。一週間体調に注意してがんばっていきましょうね。