法律ノート 第1019回 弁護士 鈴木淳司
August 09, 2016
夏真っ盛りですね。ベイエリアは海岸に近いと、摂氏20度にもならない場所が多いですが、内陸部に入ると、いきなり摂氏30度を超える状態にあります。私も虫食い休暇でゴルフを楽しんでいるのですが、場所によって服装を変え、風向きを考えなくてはいけないので、その違いを楽しんでいます。皆さんは、どのように夏休みを過ごされていますか。
知り合いに貸した数万ドル、回収するには?ー少額訴訟[1]
さて、今回から新しくいただいている質問を考えていきたいと思います。
いただいている質問をまとめると「ある人にお金を貸して欲しいということで、数万ドル貸しました。ところが、期限になっても一向に返してくれません。その人は貸家に住んでいるので、めぼしい財産があるかどうかもわかっていません。弁護士に相談したところ、判決を取ったとしても実際に現金が回収できるかわからないので、更にお金をかけて判決を取るということが難しいのではないか、という意見でした。そこで、少額裁判制度を利用して、数回に分けて裁判をできないものでしょうか。また、かりに裁判をして勝った場合、どのような回収をする方法があるのでしょうか。」という質問です。かなり長い質問でしたが、要約しました。
とにかく、かなりの額を担保も取らずに貸したのは良いのですが、回収ができないということで困っていらっしゃる様子です。
弁護士の関与なしでもできる少額裁判
まず、少額裁判についての質問部分を考えて行きましょう。
小額裁判(Small Claims)制度というのは、各州で定められていますが、カリフォルニア州においては、現在10000ドルまでの訴額が対象となっています。細かい制限はありますが、金銭を請求する訴訟では、10000万ドルまで「返してください」と主張することができるわけです。
小額裁判制度というのは、基本的に弁護士の参加は予定されていません。当事者同士で、弁論をして、裁判官が事実関係を判断します。ですので、できるだけコストを安く抑えて訴訟をするためには、かなり良い方法だということになります。
10000ドルを超えた部分は原則請求できない
今回質問されている方は、数万ドルの貸金を回収したいわけですが、10000ドルの上限が設定されている少額裁判を利用するとなると、10000ドルを超える部分が原則請求できないことになってしまいます。
今回質問されているかたのように、10000ドルの請求に「小分け」して、数回の訴訟を提起することができないか、という考えも生まれます。
しかし、数万ドルの請求を分割して、請求できることになると、通常の訴訟制度を害しかねませんね。100万ドル請求する事件があったとして、それを100分割して少額訴訟制度を利用して訴えることができたら、お金をかけないように特例として設定された少額訴訟制度を利用して、一般的な訴訟制度を潜脱することになってしまいかねませんね。ですので、これはできません。
裁判の既判力ー争いを蒸し返すことはできない
また、法律的な話になってしまいますが、日本でも民事裁判には「既判力」という概念が出てきます。
簡単に言うと、既に裁判で決まった内容については、再度裁判をすることができない、というルールです。何度も同じ内容の裁判をしても、時間と労力の無駄になってしまいますよね。
アメリカでも、Res Judicataという既判力と似たようなルールがあります。同一の事実関係から生じた紛争は、蒸し返すことができないというルールです。
したがって、たとえば、少額訴訟制度を利用して、10000ドルを請求した場合には、その基礎となった同一の事実関係を利用して再度請求をすることができなくなります。言い方は乱暴かもしれませんが「一発勝負」ということになり、カステラのように小分けにして食べることはできないということになります。
少額裁判か通常裁判か
このように考えると、今回質問されている方のような状況では、数万ドルのなかの10000ドル以外を諦めて、少額裁判をするか、通常の裁判で、全額を請求するかのどちらかになるでしょうか。
今回、質問者の方が提案されている「小分け作戦」は無理だと思います。そこで、通常の裁判で勝訴判決を得た場合に、どのように回収が運ぶのか考えていきましょう。
日本にはないですが、サマータイムを楽しみながらまた一週間がんばっていきましょうね。