法律ノート 第1025回 弁護士 鈴木淳司
September 21, 2016
「弁護士費用ー成功報酬か否か」[2]
前回から考えてきた「最近、日本から米国に進出してきた企業で会計の分野で働いている者です。会社の売掛金の回収で弁護士に頼もうと思って、色々話を聞いているのですが、成功報酬で請け負ってくれる事務所と、事件の終了まで弁護士の費用を負担しなければならないと言う事務所があります。どのように弁護士費用を考えれば良いのかわかりませんが、何か指針はありませんか」という質問を、今回続けて考えていきましょう。
アメリカで完全成功報酬制は存在するか
前回、完全成功報酬制というものはどういうものか考えましたが、今回、どのような場合、完全成功報酬制というのがアメリカでは使われているのか考えていきましょう。
まず、復習になりますが、完全成功報酬制というのは、事件が解決するまで、かかった実費を除いて、弁護士の費用を支払う必要がないという契約です。事件が解決して支払金を受け取ったときに、はじめて報酬を得るということになる方法です。
この方法というのは、ある意味弁護士にとっては「賭け」になります。やはり、最後まで報酬がもらえないわけですから、事務所のキャッシュフローに影響します。
成功報酬制で受任する場合
通常、アメリカでは成功報酬制で受任する場合、概ね金銭が事件の最後には生み出されるであろう、という事件を中心に受任します。
たとえば、交通事故です。交通事故というのは、相手方が保険に加入していますので、示談交渉が中心になり、保険会社から損害賠償金を受け取ることができます。加害者本人に資力がなくとも、保険があるので被害者への支払が担保できるということなのです。ですから、相手方に保険があるパターンの事件については、完全成功報酬制で弁護士は受任することも多いのです。
テレビ等で、成功報酬について宣伝をしている弁護士は、交通事故や医療事故など、保険がかかっている事件について宣伝していますよね。
一方で、今回質問されている方のような例だと、相手方に資力がなかったり、破産をした場合、売掛金が戻ってこない場合もかなりあります。
したがって、たとえば、大きな安定した会社に対して、争いようもない売掛金であれば、弁護士としては、完全成功報酬制で受任する場合もありますが、資金力に不安のある会社に対しては、完全成功報酬制で受任することに躊躇することも十分にありえます。今回質問されているようなケースで、弁護士が「完全成功報酬制」で受任するといえば、かなりの確率で回収ができると見立てているともいえますね。
着手金支払がなされる場合
完全成功報酬制で委任が難しいと言われたときも、場合によっては一定額の着手金を支払い、残額は成功報酬制で支払う、という委任の方法もありえます。法律事務所によってポリシーは違うでしょうが、このような形で受任をすることもあります。
こういった受任をする場合には、弁護士側としては、どの程度の労力と成功報酬の可能性があるのかを見極めることにもなります。
労力の一部を着手金としてもらいうけて、取れなかったときのリスク回避にするという側面もあると思います。この着手金を支払い、事件解決とともに成功報酬を支払うという方法は、日本では一般的な支払方法となっています。
成功報酬での受任禁止事件
以上が成功報酬についての実際です。
ここで注意が必要なのですが、アメリカでは刑事事件と離婚事件は、成功報酬で受任してはいけない、ということになっています。これらの事件は何が成功かわからないという面がありますから、成功報酬を定義しづらいということがあります。
これらの事件に関しては、一定額を支払って委任するか、以下述べる時間給に基づく委任ということになります。
成功報酬の相場
それから、成功報酬は、アメリカでは一般的に損害賠償金の3分の1というのが一般的です。これを言うと日本の弁護士は驚きますが、アメリカでは一般的です。
ただ、この金額も事件の性質や、事件のステージ、たとえば陪審裁判まで行った場合などに場合分けして変わってきます。アメリカでは弁護士の報酬基準というものは存在しません。その理由はいわゆる独禁法に反するからです。一律に決めるのは許されていないので、成功報酬にしても金額が変わってくるのですね。
ここから次回考えていきたいと思います。パラリンピックも終わり、夏が終わりました。皆さんは秋の行楽はなにをされるのでしょうか。私も結婚式の出席など、いろいろ行事があり楽しみな季節になってきました。また一週間、体調管理に気をつけて平穏に過ごしていきましょうね。