じんけんニュース 弁護士 鈴木淳司
02-01-2025
2025年1月20日に就任を終えた共和党のトランプ大統領は、共和党が掌握した米国議会を追い風に就任初日から、怒涛のような大統領令を出し始めました。
大統領令というのは、もともとエグゼクティブ・オーダーと呼ばれるものですが、トップダウンの行政命令を意味します。
司法や立法には関係ないのですが、選挙で選ばれた大統領は行政を統括するために命令を出せ、行政を司る連邦政府はその指示に従わなければなりません。
企業のトップが変わると、内部が変わるのと一緒です。
大統領が連邦行政府に対して命令をするわけですから、将来また大統領が変われば、すぐに変えることができる特質があります。
そして、行政に対しての権限に限られますので、違法、違憲などの司法審査の対象になります。
また、州政府は、そのまま鵜呑みにする必要はありません。
最たる例は、トランプ大統領に抗うカリフォルニア州でしょうか。
すでに訴訟も起こされている大統領令ですが、すでに出されている移民関連のものを今回考えていきたいと思います。
まず、すでに訴訟も起こされて、現状では連邦裁判所が差止めを許していますが、トランプ大統領は、市民権を与える出生地主義の廃止を命じました。
国の市民かどうかは、大きく分けて属人主義と属地主義で決められます。
日本のように、日本人から生まれた子どもは日本人とする国と、国内で生まれたらアメリカ人とする国があるわけで、世界的にはどちらが正しいかということはないわけです。
アメリカでは、1850年代にアメリカ国内で、中国系の移民から生まれた子がいました。
アメリカ市民です。
ところが、アメリカ国外にでて戻ろうとしたら、拒否されアメリカ最高裁まで争われました。
そして、すでにアメリカの連邦裁判所は「アメリカ国内で生まれたらアメリカ市民である」という原則を確立したのです。
その判例など、どうでも良い、というのがトランプ大統領の考え方です。
もともと開拓地であったアメリカは移民を歓迎する、というところでした。
しかし、たとえば、2022年にアメリカで不法滞在の母親から生まれた子どもは約25万5000人だった、というデータもあります。
不法な入国に続き、属地主義(出生地主義)の濫用がある、という意識もアメリカでは膨らみつつあるわけです。
1800年代の判例はあるところですが、今後はトランプ大統領の問題提起で一応議論はされることだと思います。
かりに、この問題が日本で起これば、日本政府は出生地主義をみとめるでしょうか。
ただ、アメリカというのは出生地主義を認めていることから、外国から優秀な人たちが集まるという一面があります。
家族をアメリカで育てれば、子どもはアメリカで市民として生活ができるわけです。
このメリットがなくなると、アメリカに移住するインセンティブは確実に減ると思われます。
次に、性別についてもトランプ大統領は、男性と女性の2つのみを認め、変更できないとした大統領令は、昨年6月のじんけんニュースでお伝えした民主党下の流れに完全に逆行することとなっています。
現代社会では、LGBTQに対する理解も社会で広まっていました。
移民局においても、男性・女性だけではなく、新たな市民権申請フォームにおいて、市民権申請する外国人は、第三の選択肢を設定することがやっとできることになりました。
しかし、このトレンドは、少なくともトランプ大統領の就任中には拡大していかないと思われます。
第三点目ですが、トランプ大統領は、多くの反トランプ派であった連邦職員の静粛をはじめました。
トランプ大統領は、移民に対する強制的な行政処分を行う、移民執行局、国土安全省を除き、静粛をすると言っているので、一般的な移民局の職員には早期退職を迫る可能性が発生しています。
この早期退職問題が、特に春以降非常に立て込むH-1Bのプロセスに影響が出ることが危惧されています。
間接的ではありますが、H-1Bビザの申請にも影響が出るかもしれません。
上記が、現状でのトランプ政権の動きであります。
また、取り上げていきたいと思います。
今回もう一つ最近の移民法の動きについて考えます。
H-1Bビザの運用・要件についてのアップデートです。
先ずはH-1B申請の際に使用するForm I-129が2025月1月17日に新しくなりました。
古いフォームを利用するとリジェクトされる可能性が大きいので気をつけましょう。
2025年3月に実施される抽選登録のはっきりした日付については未だ発表されていませんが、移民局のウェブサイトからEメールを登録するとアップデートを受け取れますので、今年H-1B申請に挑戦される読者の皆さんにも活用頂ければと思います。
また次回、目に留まる移民関係のニュースを考えていきたいと思います。