法律ノート 第1448回 弁護士 鈴木淳司
Dec 15, 2024
先週、私の事務所でパーティーがあったのですが、消防士の友人が来ることができませんでした。
南カリフォルニアのマリブというところで起こっている火災の消火に参加しているのです。
ビデオ電話で少し話をしましたが、24時間防火スーツを脱げないということで、見ていても辛い状況でした。
カリフォルニアの火事というと、いろいろな被害を出しているわけですが、まさか私の友人や私にもこのような影響があるとは思いませんでした。
もちろん実際に被災された方々には心よりお見舞い申し上げますし、一刻もはやい復旧を願っております。
米_企業機密の保護(2)_1448
さて、前回から
「カリフォルニアで会社を設立し、数年前からスタートアップを行っています。最近、一人被用者が退職したのですが、私の持っているノウハウを不正に流用されているような情報をウェブで目にしました。もちろん、退職後も守秘義務等で情報は守っています。雇用をするときにある程度弁護士からもアドバイスをもらいました。ただ、情報の保護が不完全だったのではないかと思うようになりました。会社の財産を守るために法律的に何ができるのか、そして不正に使用されてしまった場合には何ができるのか、知りたいです。」
という質問を考え始めました。
前回は、どのようにして情報を保護するのか、という観点から考えました。
企業機密を保護するための法的措置
今回は、かりに元従業員が情報を不正使用していると疑うような事情がある場合には、どのようなことができるのか、というのを考えていきたいと思います。
カリフォルニア州において、企業が、元従業員が自社の企業秘密を違法に使用しているといえそうな場合、その企業は自社の利益を保護するためにいくつかの法的措置を取れる可能性があります。
企業機密使用の差止命令を求める
まず、企業は、元従業員が企業秘密を引き続き使用または開示するのを防ぐための差止命令を求めることができます。
企業において、どのような不正使用があるのか証拠を集めることが重要になってきます。
前回守秘義務契約書が存在するかどうか、十分に守秘義務契約書で企業機密が守られているのか確認することが重要であることは考えました。
ただ、かりに守秘義務契約書がなかったとしても、カリフォルニア州の裁判所は差止命令を使用して企業秘密の不正使用を阻止することを認めています。
(ReadyLink Healthcare v. Cotton、126 Cal. App. 4th 1006、Brown v. TGS Management Co., LLC、57 Cal. App. 5th 303)
不正使用の恐れでも、差止は認められる
さらに、前回考えた統一企業秘密法(UTSA) では、企業秘密の不正使用または不正使用の恐れ(実際に不正使用がなくても)に対する差止命令が認められています。
(FLIR Systems, Inc. v. Parrish、174 Cal. App. 4th1270、§ 3426.2)
この差止命令については、どの程度の証拠が集められるのかは一つのカギになりますので、質問にもあるように「不正に使用」された形跡があるというのであれば、それらの証拠を残すことが必要になります。
疑いをもったら、はやいうちから証拠は収集しておくに限りますね。
さらに裁判になった場合、裁判所は保護命令を発行し、非公開審問を設定・開催、記録を封印し、訴訟に関与する個人に裁判所の事前の承認なしに企業秘密を開示しないように命じることができます。
不法行為で被った損失への救済を求める
次に、企業は UTSAおよび不正競争法に基づいて不法行為の救済を求めることができます。
これらの救済には、営業機密の不正使用によって被った損失に対する金銭的損害賠償が含まれます。
(Brown v. TGS Management Co., LLC, 57 Cal. App. 5th 303、Reeves v.Hanlon, 33 Cal. 4th1140)
企業は、元従業員が営業秘密の不正使用によって得た利益の回収を求めることも可能であると法は定めています。
企業機密を使用した顧客勧誘を差止める
第三点目ですが、元従業員が営業機密を使用して企業の顧客を勧誘した場合、裁判所はそのような行為を差止めることが可能です。
営業機密情報を不正使用して顧客を勧誘することは不正競争とみなされます。
(The Retirement Group v. Galante, 176 Cal. App.)。 4th 1226、Morlife, Inc.v. Perry、56 Cal. App. 4th1514)
さらに、企業は、元従業員の行為が会社に対する忠実義務および信頼義務の違反を構成すると主張することができ、これは差止命令および損害賠償請求の根拠にもなります。
(CaliforniaIntelligence Bureau v. Cunningham、83 Cal. App. 2d 197、Santa Monica Ice &Cold Storage Co. v. Rossier、42 Cal. App. 2d 467)
上記の訴訟をするうえで、企業は従業員に秘密保持契約への署名を義務付けたり、機密情報へのアクセスを制限したりするなど、企業秘密の秘密性を維持するために合理的な措置を講じたことを証明する必要があります。
今回質問されている企業にとっても、すでにどのような措置を講じていたのかを記録して提出できるようにしておく必要があると思います。
また、場合によっては、企業は元従業員の不正使用等の証拠を集めるために元従業員と新しい雇用主に停止命令書を送付し知的財産の不正使用の停止を正式に要求することも法律では認められています。
まずは企業機密を確実に守る方策を
このように、訴訟においては様々な手段が用意されていますし、なによりも企業の機密事項についてはカリフォルニア州ではかなり手厚い法律を用意している状況ではあります。
まずは、訴訟にならないような形で、会社内で確実に情報を守る方策をつくり、時事に応じて検証していくことをおすすめします。
少なくとも年に一度は、機密情報に関する保護を見直していくのが良いかもしれません。
また次回新しくいただいている質問を考えていきたいと思います。
ベイエリアは雨が多い季節ですが、みなさんがお住まいのところはいかがでしょうか。
咳をしている人が周りにもかなりいますが、体調に気をつけてまた一週間がんばっていきましょうね。
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