アメリカ人観光客とトラブル_日本で訴訟は?(2)_1397

サンフラン SF滞在

法律ノート 第1397回 弁護士 鈴木淳司
Dec 18, 2023

 年末ですが、今年は雇用関係の相談が目立ちます。
会社側も事業をコロナ後に再編成したり、被用者側も転職や退職を考えたり、雇用者側からの要求に応えたりといった案件が例年よりも増えているように思います。
インフレなどの要因もあるのでしょうが根本的にはコロナ禍が数年あったことで、就業に関する考え方も雇用者、被用者両方の観点から随分変わってきたように思います。
時代の流れもあるでしょうし、この数年で色々な変化があり、もうもとには戻らないような雰囲気を感じています。
みなさんはいかがお過ごしでしょうか。

アメリカ人観光客とトラブル_日本で訴訟は?(2)_1397

 さて、前回から「日本在住の者です。外国人、主に英語圏から来る観光客に自転車ツアーを個人で提供するビジネスを副業でやっています。先日アメリカ(カリフォルニア州)から来た家族に自転車数台を貸し出しました。ちゃんと前金で貸し出すお金とツアー代金はもらっていました。さらに数日自転車レンタルのみを延長したいということでその分も支払ってもらったのですが、最終的には返却に来ず、連絡も取れなくなってしまいました。盗難届は出したものの、後日見つかりました。しかし、貸し出した数台のうち2台はもう乗れるようなコンディションではありませんでした。カスタムメイドの自転車で1台15万円ほどします。被害を弁償してもらいたいのですが、アメリカでの訴訟を日本にいながらできるものでしょうか。」という質問を考えてきました。今回も続けて考えていきましょう。

 前回は、保険などにできるだけ加入して、想定される被害をカバーできるようにしておくという方向で考えるのが最善であるということをお話しました。
まずはそこからです。

損害賠償請求と実益

 今回の損害について、借受をした人(カリフォルニア州在住)に対して、損害賠償の請求をできるのか、という点について考えていきましょう。

 結論としては、理論的には損害賠償をすることは可能でしょうが、実益としては無理があるように思います。

渡航や弁護士費用の問題

 前回考えたように、少額請求裁判所(Small Claims)を本人出廷なしに行うことは難しく、相手方がカリフォルニア州に住んでいるのであれば、その住んでいる地域を管轄する少額請求裁判所において、訴訟を立てなければなりません。
そうすると、飛行機代だけでも足が出てしまいます。
航空運賃もコロナ禍後にはかなりあがっています。

 そうすると、代理人である弁護士に相談するわけですが、代理人をたてて民事訴訟をするとしても、実費だけで裁判所に払う費用も日本円では7万円程度になりますし(申立費用)、その訴状を送達するのでも1万円くらいの費用感を持っていなければなりません。
もちろんその他の費用というのも、訴訟を継続していけばかかってくるわけです。

さらに弁護士に依頼するとしても、お金がかかりますので、色々弁護士にメールで相談してみることは可能かもしれませんが、最低でも数千ドルは覚悟しなければならなくなります。
このように訴訟をするというのは、金額的に見合わないかもしれません。

弁護士経由で支払請求の手紙を送付

 一方で、ひとつの方法論としては、相手方がカリフォルニア州に住んでいるのなら、支払いを強制することは裁判を通さない限り難しいですが、一方で支払いをせよ、という手紙は送ることができます
できれば、相手方がカリフォルニア州に住んでいるのなら、カリフォルニア州に事務所のある弁護士から、支払いを求める書面を送ってもらうという手があります。

手紙を送るだけであれば、ある程度安価でやってくれる事務所もあるでしょうし、相手方にしても、同じ州内から手紙がくれば無視をするということがしづらくなると思います。
もちろんその人の道徳観にもよるとは思いますけどね。

かりに支払いをしてこないとしても、一方では、どのような事情で自転車を放置していってしまったのかなども聞けると思います。

管轄の警察に被害届を出す

 また、もう一つの手立てとしては、これは効果が薄いかもしれませんが、相手方の住んでいるところを管轄する警察署にポリスレポートを出してみることです。

 警察が動いてくれるかわかりませんが、被害届は最近ではオンラインで出すのが普通ですから、そのレポートを出したうえで、たとえば弁護士に依頼して、手紙を送ってもらうということも考えられるかもしれません。

相手へのアプローチは訴訟だけではない

 このように、いくつか直接的に損害賠償はできませんが、場合によってはある程度の効果が期待し得る方法論はありますので、もちろん保険に加入することは重要ですが、一方で積極的に相手方にアプローチするには訴訟ではなくとも、他に方法がいくつか考えられますので、「アメリカの訴訟はお金がかかる」と漠然とした一般論で諦めるのはよくないと思います。

 まずは、どこか相談しやすいところを見つけて、訴訟以外の具体的な方法論を考えてみてください。
カスタム自転車で納得行かない気持ちの部分が大きいかもしれませんので、簡単に諦めずにがんばってみられたらと良いと思います。

 今回に関するお答えはこの程度にしておきますが、さらに読者の方から「こういう方法はどうだ」ということを考えられる方もいるかもしれませんので、ぜひ法律ノートで皆さんの考えもシェアしていただければと思います。

 雨も降ったりしていますが、かなり暖かい日もあって体が不調になる方もいらっしゃるようですが、体調に気をつけながら年末年始を平穏にすごしていきましょうね。

■カリフォルニアでの少額訴訟
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今回のように、ポリースレポート提出したい、弁護士に手紙を書いてほしい等の個別具体的なご希望も、実現させてまいります。

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作成者: jinkencom

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