法律ノート 第1345回 弁護士 鈴木淳司
Dec 19, 2022
みなさんから質問をいただいて、答えなくてはならないのがこの法律ノートですが、明日、筆者が防御している陪審裁判の最終弁論(Closing Statement)が行われるので、その準備で頭が一杯で、情けないことに、他の法律の話題を考える脳みその余力がありません。
ですので、興味のない方には、申し訳なく思うのですが、陪審裁判における反対尋問について、もう一度今回考えさせてください。
ビデオによる反対尋問(2)_1345
すでに主尋問として、何人かの証人尋問を終えましたが、やはりクライマックスは嘘の多い原告の反対尋問でした。
私の所属する法律事務所には日本の資格を持っている弁護士や裁判官がいて、今回の陪審裁判に関わってくれているのですが、話を聞くと、日本では裁判の過程で、準備書面を出しながら論点を絞ってから、数十分で反対尋問をするのが普通だそうです。
今回彼らは衝撃を受けていたようですが、アメリカでは、主張の全体について陪審員に説明するために今回も主尋問、反対尋問で3日かかりました(3日と言っても、コロナ中で一日中4時間の弁論に限られていましたが)。
すなわち、時間の限り原告側は自分の言いたいことを一から十まで言ってくるのです。
私は被告側企業側なので、原告の話をまとめていき、反撃をする準備をします。
ところが、実際に原告の話を聞いていくと、元々言っていたストーリーと違うことを言い出すのです。
もう、どれが本当なのだか嘘なのだか、わからないのですが準備している私にとってみたらたまったものではありません。
オープニングステートメントで原告の弁護士が言っていることと、反対尋問を初めて原告本人が言っていることも違っているのです。
通常、ある程度聞くことを決めて、嵌めて行くのですが、かなり厄介でした。
また、原告代理人の立証もかなり杜撰だったので、逆に再主尋問で揚足を取られないように工夫しなけれななりませんでした。
結局は2日間にまたがって原告の嘘を顕出できたので、最終弁論の準備も上々になったと思います。
反対尋問というのは、証言をしている人の証言が「あやしい」という想定で信用性を崩すことをするのですが、これは経験や勘、そして判断力がとても重要になるところです。
主尋問は簡単です。
証言をする人は友達のようなものですから、事前にすり合わせをすれば成功するのです。
ところが、反対尋問では、まず主尋問で何が出てくるかわかりません。
そして、その何が出てくるかわからないところを即座に突かなければならないので、法律の知識があって弁護士だと名乗っているだけでは足りません。
瞬発力、洞察力、判断力、などあらゆる五感を使って対応する必要が出てきます。
今回の原告の代理人は老練な「できる」弁護士なので、こちらが反対尋問で、詰めまくると、今度はそれを利用して再主尋問をして、原告の信用性やストーリーを構築させてしまうと私は主尋問を聞いていて思いました。
そして主尋問では難しい事件でちゃんと立証ができていないと読みました。
そうすると、反対尋問は、原告がいかに信用のない人間であるのかを主尋問の範囲内で巧みに導き、再主尋問においては、私の尋問からヒントを全く得させないという方法をとりました。
この方法論は成功しました。
結局再主尋問でも原告は立証をできない状態になったのです。
反対尋問で、原告は私の質問を絡め取って、理由を色々説明しようと必死でしたが、私が反対尋問の王道的なやり方である誘導尋問、すなわち「はい」、「いいえ」でしか答えさせなく、理由は一切言わせない方針で、固めていきました。
かなり2日間、大変でしたが、のちにトライアルの聴取記録(トライアルトランスクリプト)を読むと、綺麗な質問と答えに落ち着いていました。
尋問をする場合には、その場で美しい尋問を意識するだけではなく、控訴や、後で陪審員が読み返しやすいように端的な英語を使って、そして読みやすくしなければならないのです。
この辺は、ドラマだけを見ていてもわからないところかもしれません。
明日は、一ヶ月以上使った陪審裁判も終わります。
最終弁論が終わると、証拠が陪審員に渡されます。
最近では、証拠をダウンロードするか、直接紙でもらうか、なんて話になるのがビデオ裁判だな、と衝撃を受けましたが、陪審員一人一人に証拠が渡り明日の午後には評議が始まります。
生の陪審裁判だと評議に付されてからしばらくは、裁判所でどうなっているのかブラブラしたりするのですが、何せビデオ評決ですので、オフィスでスタンバイしている感じになるのでしょうか。
通常であれば、気分転換に裁判所の近くで昼食を食べたり、弁護士の控室で仕事をしたりして気を紛らわせるのですが、最終弁論が終わったら、オフィスにいるというのは、なんとも座りが悪いところであります。
陪審員もバラバラに自宅でやっているのでしょうし。
評決もビデオ越しに聞くことになるなんて、まるで映画を観ているような感じかもしれません。
コロナの影響で、初めてのビデオ陪審裁判をやることになりましたが、なんだかまた新しい法律実務に触れたようで、弁護士というのはいつも何か新しいことに接することができて面白い仕事だな、と思っています。
評決がどうなったとしても、私はベストを尽くして尋問もしました。
これで一つ区切りになりました。
みなさんも、年末に向けて色々忙しくなると思いますが、体調には注意してまた一週間頑張っていきましょう。
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