米国連邦移民局とプライバシー問題_1313

サンフラン SF滞在

法律ノート 第1313回 弁護士 鈴木淳司
May 11, 2022

今回(たぶん次回も)は、皆さんから頂いている質問にお答えするのを休ませていただき、時事、目についた話題を考えていきたいと思います。

ジョージタウン大学にあるCenter on Privacy & Technologyから発表されたAmerican Dragnet(https://www.law.georgetown.edu/privacy-technology-center/publications/american-dragnet-data-driven-deportation-in-the-21st-century/)という調査結果について皆さんにも考えていただきたいと思い、今回取り上げます。

連邦政府が移民局を通して行っているアメリカに居住する人たちの調査とプライバシーの問題です。

何が正解なのか、私もすぐにはわかりません。
しかし、今回ご紹介するようなことが、皆さんが普通に生活していることでも起こっているという認識を持ったほうが良いと思います。

今回ご紹介する調査結果の主たる点をまとめると連邦移民局の対移民活動を行う部署であるICE(Immigration and Custom Enforcement)は現状において
①米国にいる成人の3人に1人の運転免許証の写真をスキャンし終えている
②米国にいる成人の4人中3人の運転免許証のデータにアクセスしている
③米国にいる4人中3人の運転者の動きを町中で追跡している、そして
④公共料金の記録を利用して、米国にいる4人中3人の居場所を把握している
ということがわかったそうです。

すなわち、外国人、アメリカ人に関わらず連邦政府は、ほぼ4人中3人の位置情報などを知っているということになります。

連邦政府による個人情報への政府のアクセスについては、2001年の同時多発テロ以降、かなり増加しています。

テロ行為を未然に防ぐために、情報が重要ということになり、様々な方法で、個人情報を集めています。
上記の調査レポートによると、2008年から2021年の間に実に、2.8ビリオンドルを調査行為に使っていることが判明しています。

また、このような個人情報の把握については、全体像はわかっていませんが、わかっているだけでもかなり広範囲になっています。

911事件のあと、ICEはかなりの権限を与えられ、その権限を下地に独自に情報網の進化を遂げた状況になっているわけです。
そして、その進化の速さや量的な広がりは一般の人たちが知らないところで行われているのです。

カリフォルニア州はプライバシーに関して、すべての州のなかでもかなり敏感な州であります。
ですので、コンピュータ経由のクッキーなどについても個人情報の抜き出しにつきセンシティブに法律をつくるようなことをしています。

また、公共料金等の情報をプライバシーとして守るための法律が2020年に制定されました。

ところが、連邦政府は、情報のブローカー業をやっているトーマスロイター、エキュイファックスといった会社が電力水道等の会社から情報を買っていることに目をつけて、これらの情報ブローカーから情報を買う契約を結んでいます。
州でプライバシーを守る法律をつくっても、潜脱して情報を得ているわけです。

また、DMV(運転自動車局)の情報についても、ICEが直接アクセスして情報を収集しないような法制化も州によっては行っていますが、ICEは直接DMVから情報を入手するのではなく、レクシスといった情報のブローカーと契約し、間接的に情報を得ることを続けています。

このような連邦政府の情報取得とプライバシーを守るという概念の対立については、連邦や州の議員も認めて考えているようですが、情報の収集については、止めることができないことが事実として存在しています。

プライバシーとは、他人に見られたくない情報をコントロールする権利とか、実は目に見えない概念なので、定義も多義的な部分があります。
また、どこまでがプライバシーとして考えられるのか時代によっても、国によっても、社会によっても差があるものです。

本来は、一つの確固とした内容で明確であればよいのですが、移り変わるものでもあります。
現在の情報社会において、DNAまでも他人にわかってしまう可能性もあります。
それでも良いと考える人もいれば、大いに困る人もいるわけです。

技術が進化すれば、プライバシーの立ち位置も大いに変わってくる可能性もありますよね。
ただの興味で、人のプライバシーを探りたい人もなかにはいるでしょう。
それは、それで問題があります。

一方で、テロ行為を事前に防ぐ、不法移民を探す、といった行政としては正当とも言える行為と、各個人のプライバシーが衝突する場合には難しい問題が生じます。

プライバシーをある程度犠牲にしても、テロの標的にはなりたくない、と思う人もいるでしょうし、絶対的にプライバシーは守るべきだ、という人もいると思うのです。
行政と個々人の権利がぶつかるという観点では大きくかなり難しい問題ではあります。

私も、一個人として意見はありますが、今回はこのような大学の調査結果があり、皆さんにもプライバシーとは一体何なのか、考えていただきたいと思って取り上げました。

皆さんがどう思うのか、私は非常に興味があります。
法学者の概念的な話ではなく、皆さんの生活のなかで、どう思われるのか、ぜひ機会があったら私に教えて下さい。

この週末にいくつか私も花を買いまして、鮮やかな色と匂いを楽しんでいます。
季節を感じながら一週間寒暖差がありますが、また次回まで、がんばっていきましょうね。

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作成者: jinkencom

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