法律ノート 第1536回 弁護士 鈴木淳司
August 9, 2026
8月に入り、アメリカでは、もう新学期がはじまりました。日本では夏休み真っ盛りの時期ですが、アメリカでは、すでに6月から休みのところも多いわけです。スクールバスや送り迎えの車で道が急に混みはじめ、ああ夏も後半なんだな、と実感させられます。皆さんはいかがお過ごしですか。
さて、今回から新しくいただいている質問を考えていきたいと思います。
いただいている質問をまとめると「一部個人のデータを扱う日本企業からカリフォルニアの企業に出向している日本人です。現在、アメリカのデータ関連企業と業務を提携しているのですが、最近DROPに気をつけなければならないということを聞きました。私はアメリカに出向しているだけですが、所属会社自体は日本にあるので、このDROPはアメリカの企業には影響しても所属元の日本企業には適用されないと考えてよろしいでしょうか」というものです。
ご質問ありがとうございます。今月から本格的に施行されたばかりの新しい制度ですが、質問をいただいた方も言われているように、以前から、企業では結構議論がされている内容です。
結論を先にいってしまうと、「会社が日本にあるから適用されない」と考えるのは危険です。ただ、その理由を理解していただくには、まず制度の仕組みを整理する必要がありますので、今回と次回の二回に分けて考えていきたいと思います。
前提となるのは、カリフォルニア州の個人情報保護法制です。カリフォルニア州には消費者プライバシー法(California Consumer Privacy Act・CCPA)という法律があり、消費者に対して、事業者が保有する自分の個人情報の開示、削除、販売停止などを請求する権利を認めています。その後、住民投票による改正を経て、執行機関としてカリフォルニア州プライバシー保護局(California Privacy Protection Agency・CPPA)が設置され、規制は年々強化されてきています。
そして、2023年に成立したのが、ご質問のDROPの根拠となる、いわゆるデリート法(Delete Act・SB 362)です。この法律が規制の対象とするのは、データブローカーと呼ばれる事業者です。データブローカーというのは、大まかにいうと、直接の関係をもたない消費者の個人情報を収集し、第三者に販売する事業者のことです。つまり、消費者本人から直接情報を集める会社ではなく、他の事業者などから集めた情報を、いわば商品として流通させている事業者を想定しています。氏名や住所だけでなく、購買履歴、位置情報、オンライン上の行動履歴といった情報が、本人の知らないところで売買され、詐欺やなりすましに悪用される危険もある、ということが立法の背景にあります。データブローカーは、毎年、州のプライバシー保護局に登録をしなければならず、登録を怠ると民事制裁金の対象になります。現在、600社を超える事業者が登録されているといわれています。
このデリート法の目玉が、ご質問にあるDROP(Delete Request and Opt-out Platform)です。日本語にすれば「削除請求・オプトアウト一括プラットフォーム」とでもいうべきもので、消費者が、州の運営するウェブサイトで一回請求するだけで、登録されているすべてのデータブローカーに対して、自分の個人情報の削除を一括して請求できる、という仕組みです。従来、消費者は一社一社に個別に削除請求をしなければなりませんでしたから、これは画期的な制度です。しかも、一度請求をすれば、データブローカーはその後も定期的に削除の状態を維持しなければならないとされており、消費者側からみれば、いわば「一度頼めば消え続ける」仕組みになっているのです。
スケジュールとしては、本年2026年1月1日から消費者による請求の受付がはじまり、そして先日の8月1日から、データブローカーの側がDROPにアクセスして削除請求を処理する義務が本格的にはじまりました。データブローカーは、少なくとも45日ごとに請求リストを確認し、対応しなければなりません。質問者さんが「最近DROPに気をつけなければならないと聞いた」というのは、まさにこの本格施行のことだと思います。次回は、いよいよ本題である、日本にある会社にも適用があるのか、という域外適用の問題を考えていきます。
新学期がはじまると、街全体が急にせわしなくなりますね。
夏の疲れが出やすい時期ですので、体調に気をつけて、また一週間がんばっていきましょうね。
このシリーズを読む
- 第1回(本記事):カリフォルニア州の個人情報保護法とDROP(1)_1536
- 第2回:(次回公開予定)日本にある会社への域外適用
関連する米国法律リソース
- DROP(Delete Request and Opt-out Platform)消費者向けポータル(CalPrivacy)
- CalPrivacy データブローカー・デリート法 情報ページ
- デリート法(Delete Act・SB 362)条文 California Civil Code §1798.99.80 以下
- 消費者プライバシー法(CCPA)条文 California Civil Code §1798.100 以下
- カリフォルニア州司法長官 CCPA 解説ページ
免責事項
本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、特定の個別案件に対する法的助言ではありません。記載内容は執筆時点(2026年8月)の情報に基づいており、法律や規制は変更される可能性があります。
本記事の内容に基づいて行動される場合は、必ず専門の弁護士にご相談のうえ、個別の状況に応じた適切な法的助言を受けてください。本記事を読まれたことにより、JINKEN.COMまたは執筆者との間に弁護士・依頼人関係が成立するものではありません。
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