アメリカ_賃貸住宅のキャンセルポリシー(3)_1385

サンフラン SF滞在

法律ノート 第1385回 弁護士 鈴木淳司
Sep 23, 2023

 20年前には信じられなかったことですが、ある事件の和解調停の全工程をオンラインで行いました。
参加者の参加場所が世界のあちこちで様々でしたが、オンラインで集まり、無事に解決をすることができました。
私も夜中まで調停をやる羽目になりましたが、遠いところまで出張するよりもまだ体への負担も少ないかな、とは思えました。

昔は、黄色いリーガルパッドに相手方弁護士とともに、和解調書をボールペンや万年筆で書いて、後で清書するというのが一般的でしたが、今ではメールで文面をやり取りして、はい、終わりという感じです。
時代は変わりました。

アメリカ_賃貸住宅のキャンセルポリシー(3)_1385

 さて、前二回で考えている、「はじめまして。いつも楽しくニュースレターを読ませていただいています。とても丁寧で、わかりやすく、ためになります。私はロサンゼルス在住です。家を借りることになり、昨年末入居ということを口頭で合意しました。前払いを求められ、2ヶ月分の家賃と1ヶ月分の家賃をデポジット(保証金)として振り込みました。しかし、入院することになり入居前に、医師の勧めで引っ越しをキャンセルする電話をしました。大家さんは、遅れた分1ヶ月分の家賃はもらうと言いました。そして、デポジットは返金しますというメールが来ました。しかし、返金されませんでした。何度かメールしても返信がなく、無視されています。私と大家の間に契約書は全くありませんでした。そして、このキャンセルポリシーについての説明もありませんでした。入居2週間前に初めて聞かされました。解約すると1ヶ月分の家賃を取られるとは知りませんでした。」という質問を、今回も続けて考えていきましょう。

保証金の設定自体は違法ではない

 前回は保証金(デポジット)の部分について考えました。

今回の質問ですが、たぶん「2ヶ月分の家賃と1ヶ月分の家賃をデポジット(保証金)」ではなく、「2ヶ月分の保証金と、1ヶ月分の家賃前払い」というのが事実的にはしっくりくるところです。

前回考えたように、2ヶ月分の保証金というのはカリフォルニア州では許されていますので、今回の大家さんがなにか違法なことをしたということはありません。

保証金は、物件の原状回復や家賃未払いなどを担保する目的ですから、原則として、保証金は店子に返金されなければなりません。

通常は、すでに物件に住んでいて保証金の返金を求めることになりますから、大家は、店子の退去から21日間の間に、保証金を全額返金するか、控除をする場合には明細を添付しなければなりません。

また、控除が125ドル以上であれば、明細だけでなく実際に支出した原状回復に伴うレシートや請求書を添付しなければなりません。

今回の質問では、そもそも入居していないわけですから原状回復が伴わない以上、解約を申し出てから21日以内に2ヶ月分の保証金は支払われるべき、ということになります。

家賃の考え方と契約の形式

 今回は、家賃1ヶ月分について考えていきましょう。

家賃については、基本的には賃貸借契約にどのように記載されているのかが優先してコントロールします。
たとえば、家賃の額などですね。

ここで、質問者の方は口頭で契約しているだけということなので、書面はありません。

通常、私がよく見る雛形的な契約書は、1年間(または複数年間)の契約で、1年の家賃が◯◯ドル、それを12分割して、月初に支払うという書き方になっています。
かりに質問者の方がこのような契約に署名をしていれば、すでに1ヶ月分の家賃は1日に払わなければその月は使用できず、それを支払ったということになるので、返金を求めるのは難しいと思います。

逆に、本来は1年契約であるということを主張され、次の店子が決まるまでの家賃を填補しろ、ということで損害賠償を請求される可能性があるわけです。

契約書がないなら裁判所で主張もあり

ただ、今回は契約書がないということですから、お互いに何を合意したのか、揉めれば裁判所でお互いの主張をすることになります。
金額的には少額裁判所でしょうか。

メールの文章などは証拠になると思いますし、当事者の証言も必要になります。
かりに何も約束がなく、物件を借りて家賃を払うという契約をした場合には、もちろん裁判でどのような証拠が出てくるかわかりませんが、1ヶ月分の家賃は大家側がキープできる可能性が高くなってくると思います。

なぜなら、貸す側も、借りる側が入居することを前提として、他の募集を断ったりしている可能性もあるわけです。
1ヶ月空いてしまうと、大家にとっては1ヶ月分の家賃が、今回の質問者が持つ理由はともあれ、もらえないことになってしまいます。

自己都合のキャンセルは家賃支払う可能性

今回の質問者のように自己都合により借りるのをやめた場合には、1ヶ月分の家賃は取られてしまう可能性は大きいと思います。
もちろん、証拠にもよりますので、はっきりどのような結果になるのかは、実際の事件を見てみないとなんとも言えません。

一方で、大家が、新たに店子を見つけて、家賃を別のテナントからもらえることになった場合には、1ヶ月分を二重取りになるので、その返金に関して、裁判所は返金する方向に傾くのではないでしょうか。

 このように、保証金については強く返金を求めることは可能だと思いますが、1ヶ月分の家賃に関しては、具体的な事情にもよりますが、紛争化する可能性はあるということになります。

本気で返金を求めていくのであれば、少額裁判所を利用して、訴えを提起していくということになると思います。

いただいている質問に関しては、今回までにして、また次回新しくいただいている質問を考えていきましょう。

 やっと秋らしい気候になってきたところも多いのではないでしょうか。
あまりにも暑い夏でした。
秋が早く通り過ぎないことを祈ります。

皆さんも季節替わりですので、健康には注意してまた一週間がんばっていきましょうね。

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作成者: jinkencom

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