法律ノート 第1079回 弁護士 鈴木淳司
Oct. 17, 2017
法律ノートを1000回以上書いているということは、それだけでも20年間書き続けているわけですが、私は何ら変わらなくても、ベイエリアはかなり変容しました。今回は皆さんからの質問にお答えするのを一回休ませていただき、サンフランシスコの街の変容について、特に日本の読者の方々に考えていただきたいと思います。
カリフォルニア州弁護士コラム「あれから20年」_1079
数週間前に、大阪の大手法律事務所で勤務する若手弁護士と呑んでいましたが、彼いわく、日本人や日本企業の海外でのプレゼンスがかなり縮小していると意見していました。彼は、アメリカだけではなくアジア全域も目にしている様子でしたが、同様の意見を色々な人から聞いているので驚きはありませんでした。
住みにくくなったサンフランシスコ
アジアの都市部ではあるアジアの大国が幅を効かせていて、地価や物価がかなり値上がりしているということでしたが、サンフランシスコも例外ではありません。どの著名な都市でも、もともと生活をしている地元の人達には「住みにくくなった」という話しばかりです。
最近、サンフランシスコの中華街に慰安婦像が立ったそうです。私有地に立っているこの像の開幕は市長も同席したそうです。日本の総領事館もかなり労力をつかったことは聞いていますが、あるアジア大国が、ベイエリアに5000億円強の投資をして、さらなる投資も歓迎すると市長がスピーチしている現状では、大阪市がどのような抗議文を送っても、実際の効果は推して知るべしといった状況です。日本にいる友人のなかには、もうサンフランシスコに行きたくない、という人もいます。まあ、それは極端に感じますが、かりに歴史が政治利用されるとすれば、将来を考えたとき日本人としては憂慮するべきことかもしれません。
サンフランシスコで私が良く飲みにいった店の日本食経営者もかなり減ってきました。日本食を食べにいっても、日本人はほぼいません。小奇麗な妙に気取った料理屋に行っても、高価な雰囲気にお金を払っているだけで、バブルの頃、80年代の日本で名だけ馳せたフランス料理屋のような感じです。真っ当な日本食を広めようとしてがんばっている日本人もいるにはいるのですが、サンフランシスコ市内は、家賃が高くて見合わないと言っています。この家賃の高騰で、どんどん馴染みのレストランがなくなっていっています。
家賃が今までの1.5倍に
私の所属する事務所の入っているビルもアジアの大国系の投資ファンドに昨年買われました。地元に住まない人による投資が入ってくれば、コミュニティを大事にすることは考えません。どれだけ投資をしたお金を回収できるか、ということが最重要になるでしょう。資本主義の基本でしょうか。ビルのサービスもだんだん悪くなり、エレベーターさえ、すぐに来なくなってきました。
ビルの周辺にある昼飯を食べるところも、まともなところが少なくなってきました。家賃が払えないからです。私の入っているビルも、リースの更新になったのですが、家賃が最低でも今までの1.5倍になるということです。今までの大家はかなり、長期にいる私の所属する事務所に好意的でしたが、アジア大国ファンドが入ってくれば「金、金、金」というスタンスで、取れるだけ取るという考えです。
古いと言われればそれまでですが、私が人との関係を大事にする考えを動かせません。なので、このような大家に付き合うのをやめました。大家のために弁護士をやっているわけではありませんからね。年初に、今の場所よりも、もっと中心部に移ることにしました。15年もいた場所から移るわけです。
サンフランシスコでの20年間
色々、新しい場所を物色したのですが、最終的に移る場所を決めたのは新しい大家さんでした。かなりの規模の事務所なので、大移動なのですが、この新しく移る場所の大家さんは、私たちが見学に行ったときにわざわざ親子で来てくれて、直接会えました。現在のサンフランシスコダウンタウンでは「レア」な出来事だと思います。その大家さんも最近の店子は、顔も見せない、と言って嘆いていました。
街は変わっても私のスタンスは変わりませんし、長い間一緒に仕事をしている仲間やクライアントも変わりはありません。ただ、20年前と比べると色々なところで、ずいぶん窮屈な街になってきたものだ、と感じます。また、これから20年はこの街を見続けるのでしょうが、さて、どのように変わっていくのでしょうか。
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