法律ノート 第1141回 弁護士 鈴木淳司
Dec. 21, 2018
今、アメリカでは調理を簡単にするための圧力がかけられるポットが売れています。私も手に入れ、「ヨーグルトモード」を利用して、納豆をつくってみたら大成功でした。豆の香りも食感もよく、いったん冷凍した納豆よりも格段に美味しいのです。乾燥大豆で良いものがあれば、もう納豆は買うことはなさそうです。納豆菌は市販の納豆から拝借しました。皆さんは健康的な食生活を送られていますか。
アメリカで事業買収(3)_1141
さて、前二回の続きです。
「日本から質問しています。現地カリフォルニアに所在する小さな加工業者を買収しようと計画を進めていたのですが、最近になってこの業者は、会社形態ではなく、オーナーの個人所有ということがわかってきました。当社(日本の企業)としては、このカリフォルニアにある生産加工のロジスティックを一括して譲り受け事業をアメリカ国外にも展開したいと思っているのですが、このような個人事業を買い受けることが社内で問題になっています。注意点を教えてください。」という質問を考えていきましょう。
前回は、買い受ける対象となる財産をリスト化するというところまで考えました。
法的な確認をして財産のリスト化を
リスト化するといっても、無体財産になかなか値段がつけられないものですが、そのあたりは、他の事業と比べたり、採算などを予測して、ビジネスの判断をしていくしかありません。法律の観点からは、財産があったとしても、なにか担保がついていないのか、など法的に確認をする必要がでてきます。
かりに、売主がどこからか借金がある場合などは、担保になにか取られていないのか注意しなければなりません。
ビジネスのエスクロー
ある程度、ビジネスの価値を決めたら、通常はビジネスのエスクローをはじめます。
エスクローというのは、中立な第三者の業者であって、対価の交換をしながら、内容を確認するところです。いわゆる金銭を支払うことと、ビジネスが手渡されることが同時履行にできるのでメリットがありますし、取引上の瑕疵もエスクロー内で確認することができます。
エスクローを用いて取引を行う場合でも、売主の言っていることが違っていたら、あとになって責任を追及できるといった条件を取引につけておくことが可能です。
ですので、売主が、「借金はありません」と宣誓して、その内容を契約書の一部とします。そして、実は借金があった場合には、その返済を売主が行うという形にしておけるのです。実効性については、個々の事例によって違ってくるとは思いますが、このようなやり方もあります。このように、エスクローを通して、取引は無事に終了することが可能です。
競業避止義務の問題
もう一つ気にしなければいけないのが、競業避止の問題です。個人事業主は往々にして、その人なりで商売をしていますので、財産を譲り受けたとしても、競業を許せば元も子もない状態になりかねません。
一般的にカリフォルニア州では、競業避止義務を契約上課すことは禁止されています。とくに雇用契約においては、競業避止義務を課すことは、原則許されません。ところが、ビジネスを売り買いする場合には、例外的に許されることがあります。したがって、今回考えているビジネスの売買については、売主に期間を決めて、同様の商売を禁止する条項を入れておくことも可能ですし、入れるべきだと思います。
ただ、しつこいですが、カリフォルニア州では競業避止義務を課すことがかなり消極的です。個人の働く自由を奪う側面が強いからです。ですから、今回の質問のような場合にも、かなり期間など限定的にドラフトしなければ無効となってしまう可能性があります。ぼんやりした条項を入れるのはやめたほうが良いと思います。この点については、訴訟法をよく知っている弁護士に相談しておいたほうが無難でしょうね。
以上でだいたい、個人事業主からの事業を引き継いで行く方法を俯瞰できたと思います。他にも、様々な問題を含んでいる問題でしょうし、私もすべてここで書けたわけではないので、また皆さんからの質問を待って考えていきましょう。
私は年末になってバタバタと忙しく仕事をしています。年末年始はゆっくり休めることを祈って、また一週間がんばっていきましょうね。体調には注意してホリデーを楽しんでください。
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