寄付金の使途は?アメリカで寄付(3)_1167

Golden Gate sanfran

法律ノート 第1167回 弁護士 鈴木淳司
July 1, 2019

 アメリカの国勢調査で、市民権の有無を聞く質問を加えたいという現政権は、最高裁判所の判断で出鼻をくじかれました。アメリカの連邦最高裁判所の開廷期間は10月から6月までです。今期最後の判断で、今年行われる国勢調査(大統領は「遅らせてやる」とソーシャルメディアで息巻いていますが)に市民権の有無は反映されないことになりました。

 さらに、最高裁判所はオバマ政権のときに制定されたDACAの合法性について来期取り上げると説示し、違法性を強く主張する現政権を牽制しました。私だけでなく世の中の女性や人権擁護派に毛嫌いされている最高裁判事が今期末で辞めるという噂が出ていますが、本当に辞めてくれないかな、と祈りながらニュースを見ています。みなさんは虫に刺されていませんか?

寄付金の使途(3)_1167

 さて、前二回考えてきた「10年ほど前から懇意にしている医師の紹介で知り合った、ある音楽家のリサイタルをサポートするために、ある程度まとまったお金を寄付しました。その音楽家の方の姿勢や演奏内容に賛同したこともあります。しかし、リサイタル前に音楽家の方が、かなり重い病にかかり、リサイタルは中止され、今後の活動も難しくなってきました。寄付金について、あまり大きな声を出したくないのですが、実際には寄付金はリサイタルの準備には使われなかったようですが、すでに集めた寄付金はこの音楽家のために使われたということで、さらに寄付を求められています。このような場合、使途を明確にするとか、さらにどのような名目であろうと、寄付金が使われるのか知る方法というものはないのでしょうか」という質問を続けて考えていきましょう。

寄付金から基金を設立している形態も

 前回の終わりに、寄付先の団体がどのような目的をもった団体でどのような内部の規律があるのかを確認したほうが良い、ということを書きました。ここから考えていきたいと思います。

 まず、今回の質問をよく読むと、可能性として音楽家の方に個人に寄付してしまったかもしれません。そうすると、税的な優遇措置を受けられるのは難しいと思います。

 ある程度まとまったお金を寄付されているのであれば、非営利団体が寄付先になっているのではないでしょうか。

 かりに、今回質問されている方の言うように、寄付の目的とは異なったお金の使い方をされているとした場合には、法的措置がとれるかどうかというと、取れる可能性はあります。ただ、どの程度目的と違った使い方をしているのか、という「程度」問題になりますので、クリアーに勝てるといえる弁護士はなかなかいないと思います。

 寄付金から基金(Fund)を設立して、運用益から非営利の目的を達するという形態があることは前回言及しました。

 基金に関しては、カリフォルニア州も含めほぼ全部のアメリカの州で、同内容の基金運用・管理に関する法律が制定されています(The Uniform Prudent Management of Institutional Funds Act)。ですので、この法律に基づいて、寄付金がちゃんと運用されているのか、各団体の行為は裁判になれば問題にできるわけです。

 通常の寄付というのは、団体の目的達成のためにアバウトに譲り渡されるものですが、基金は、寄付の形態ですが、寄付金に紐をつけて、原資はそのまま使わせないが、運用益は目的達成のために使えるというものです。

ジョージア・オキーフも寄付をめぐって訴訟に

 この設定された目的とは違った寄付金の使い方をされた場合、有名な事件も含めアメリカではいくつも訴訟に発展しています。

 有名どころでは、私も好きなジョージア・オキーフとテネシーの大学で揉めた事件です。2005年からはじまった紛争は、やっと2012年に解決しましたが、ことの発端はジョージア・オキーフが、先立った夫と自分の所有していた101点の絵画をテネシーの大学に「売ったり、バラバラにしたりせずに、保管するなら」寄付するという紐をつけていたのですが、大学が財政難になり、絵画を売りたいということで、訴訟になりました。

 目的と違うじゃないか、とオキーフ財団は主張しました。
 法律論というのは面倒なもので、裁判では、オキーフ財団はオキーフ本人じゃないじゃないか、という問題(当事者適格の問題といいます。)、目的は理解しているが、長年の経過で大学の事情も変わってきているのだ、という主張(事情変更)など、様々あり、結局、アメリカで、大型スーパーの経営者の所有する美術館が50%の所有権を得て、展示などをする代わりに金銭を大学に支払うことになりました。

 色々な判例を見ると、目的とは違った寄付財産の使用が許されるかどうかは、
(1)目的がどの程度制限されているのか、
(2)どの程度の期間寄付財産を目的のために使ってきたのか、
(3)寄付先の財政難がどの程度深刻か、
(4)団体に更に重要な目的ができたのか、
(5)目的に不都合が生じてしまった、
(6)寄付財産の管理コストが高すぎる
などを考慮しているようです。

 このように、かなり大掛かりな訴訟になりかねない現実はあります。そうすると、今回質問されている方は訴訟までいくとなると慎重に考えなくてはなりません。

まずは寄付先の財政支出と定款を確認

 ただ、今回の質問のような疑問がある場合には、訴訟などを考えずに、まずは、寄付先の団体に定款を見せてもらうとか、収支明細を見せてもらうことが重要だと思います。非営利団体の財政支出、定款などは、公になっているのが普通ですので、どのような団体かはわかりませんが、聞けば素直に出してくれるのがお約束と思って良いと思います。

 そのうえで、団体の管理者(理事など)に、書面で問題点を問い、納得いかない回答しかこないのであれば、非営利団体を管理する州や連邦政府に調査を依頼するのが良いと思います。

 疑義が生じている以上、あらたに寄付をするのは、いくら頼まれても、内実が明らかになってからの方が良いと思います。リサイタルが聞けないのは、残念ですがしょうがないと思います。

 次回、今回の質問にお答えする最終回としたいですが、今回の質問のような寄付をする場合に気をつけておいた方が良い点をいくつか取り上げてみたいと思います。野球シーズン真只中ですが、外に出るときは紫外線に注意しながらまた一週間がんばっていきましょうね。


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作成者: jinkencom

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