法律ノート 第1171回 弁護士 鈴木淳司
July 28, 2019
現大統領の方針で、不法入国した移民の強制送還が行われていて、賛否が加熱しています。基本的に日本に住む方々にしてみたら、不法入国なんてもっての他であると思われている方もいると思いますし、アメリカでも同様の意見も根強くあります。
私が問題に感じているのは、不法入国等の移民の問題に関して、政治的なプロパガンダ化していることです。大統領がいわば人気取りのために、移民を利用し、人種差別的な発言をする。そして、一般の人たちが安易に影響を受ける。様々なメディアがある現代こそ、物事を冷静にそして批判的に見る目が必要に思います。皆さんはどのように思われますか。
日本の健康保険、アメリカ在住で使えるの?(2)_1171
さて、前回から考えてきた
「フリーランスでIT関係の仕事をしています(在日本)。今度、あるベイエリアのIT企業からオファーをいただき研修として行くのを楽しみにしています。その米国の会社から、色々条件を言われているのですが、健康保険等については自己負担ということを言われています。海外旅行者保険には入ろうとは思っているのですので、日本の健康保険(国民健康保険)もそのまま使えるような話も聞いています。できるだけ出費を減らしたいのですが、やはり任意保険も入るべきなのでしょうか。」という質問です。
前回、国民健康保険加入者を対象として一部認められる海外療養費が存在し、制度の範囲内で海外の療養についても支払われることを考えました。そうすると、今回の質問にあるように、健康保険の恩恵を一定程度海外でも受けられるということは言えると思います。
では、任意に加入する海外旅行者保険というのは、不要なのでしょうか。以下考えていきたいと思います。
海外療養費のカバー範囲は部分的
まず、日本政府から支払われる海外療養費というのは、たとえばアメリカで受ける治療のすべてを賄ってくれるわけではありません。ここは前回考えました。
ですので、任意の保険に加入し、できるだけ万が一の場合の支出を最低限度に抑えられるという観点はあり得ると思います。
したがって、海外療養費が存在することを前提として、その支払額を超えてどの程度カバーをしてくれるのか、任意保険を選ぶときに考えるポイントになると思います。
海外の医療機関には支払済であること
次に、海外療養費が認められるためには、
海外の医療機関からの請求に対して、すでに支払いがなされていることが前提となっているようです。
私も、以前に海外療養費の請求に関わったことがあるのですが、そのときに日本の行政から、すでに海外の医療機関に支払ったことが前提となると言われたことがあります。
したがって、
一旦自分のポケットから医療費を支払って、その後還付を求めるという構図になるので、自己の出費が想定されます。
この観点から、最終的には海外療養費が支払われるとしても、いったん代替的に支払がしてもらえるかどうか、ということも任意保険に入る際に確認したほうが良いポイントということになります。
医療機関の請求は精査して値切る!
そして、日本と違う文化がアメリカではあるので、その点も考えておく必要があります。
アメリカでは、
病院等の医療機関が報酬請求をした場合、保険会社はその内容をかなり詳細に精査して、「値切る」ことをします。そして、弁護士も、クライアントが医療報酬を支払わなければならない場合には、依頼人に代理して、「値切る」、ことも常時行います。
ですので、
医療機関から請求された額を言い値で払うということは通常行われないわけです。
しかし、今回質問されている方のように、
一時的にアメリカに渡航し、英語もそれほどできないという方が、アメリカの医療機関と交渉をして、値段を調整するなどはかなり難しい可能性があります。
一方で、任意保険に加入していると、保険会社が皆さんに代位して、医療機関と話をしてくれます。これは、国の海外療養費の給付だけを念頭においているとありえないことなのです。
私も保険会社を代理して何件も医療機関と話をしたことがありますが、交渉が難航することもあり、やはり一介の旅行者が簡単に対応できる内容ではないかもしれません。そうすると、任意保険に加入していることで、このような交渉しなければならない頭痛などから開放される可能性が高くなります。
任意保険加入を推奨するようですが…
また、任意保険に加入すると、日本語での受付サービスもあるでしょうし、医療費だけではなく、盗難などの不慮の事態にも対応してもらえるという付加価値もあります。
もちろん、私は弁護士で営業をしているわけではありませんので、みなさんがどのような任意保険があり、どのような内容の保険なのかは確認していただかなければなりませんが、少々の出費でかなりの安心は買える可能性はあります。今回の法律ノートを読んで、どのようなメリットがあるのか確認しつつ、慎重に選ばれると良いと思います。
夏真っ盛りで、学生さんたちも夏休みを楽しまれているのではないでしょうか。日差しが強いので、熱射病や日焼けに気をつけつつ、また一週間がんばっていきましょうね。
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