法律ノート 第1043回 弁護士 鈴木淳司
January 31, 2017
トランプ政権が大統領令(Executive Order)を連発しています。なかでも、移民政策に関してはかなりの反発を招いています。
よくこの大統領令を見ると、時限命令、すなわち90日間、とか120日間というように期限が設定されています。一時的なパフォーマンスなのかもしれません。しかし、自分の関連会社が利益のある中東諸国は入国禁止リストから除いているというのはどうかな、と思っています。
アメリカの孤立を招く恐れがありますね。皆さんはいかが思われていますか。
「米国での起業とビザ。友人を助けたいがリスクは?」[2]
さて、前回から考えてきた、「日本にいる友人が米国で起業をして、ビザをとりたいという相談を受けています。まずは、アメリカに在住している私が会社を起こして、日本からの投資を受け、友人にビザを出せないかと考えています。このようなケースにおいて、質問はたくさんあるのですが、まず友人を助けるという観点から会社の社長などになったときに、何か私個人の責任が発生しないかと心配になってきています。あとで友人と揉めるのも本意ではないので、リスクのあることはしたくないというのが本音です。」という質問について、続けて考えていきましょう。
株式会社の役員ー執行3役と取締役
まず、株式会社には、執行3役と取締役が必要になります。もちろん一人会社も可能なので兼任できますが、現地(アメリカ)にいる今回の相談者のような方も関わっていくということになるのではないでしょうか。執行3役というのは、President, Treasurer, そしてSecretaryという名称で呼ばれています。日本の会社法になじまれている方にはわかりにくいと思うのですが、私が比喩をすると、Presidentというのは総理大臣、Treasurerというのは財務大臣、Secretaryというのは法務大臣という感じでしょうか。これらの執行3役は実際に業務を執行するまとめ役になるのですが、執行3役を監視するのが取締役(Director)ということになります。さて、今回御友人から「頼むよ」ということを言われ、これらの役割を担うことになったとしましょう。そうすると、どのような責任が生じるのでしょうか。
善管注意義務と責任-Duty of Care
今回は、一般的な責任を考えるにとどめますが、会社が社外に迷惑をかけたときに、「善管注意義務」という責任が発生する可能性があります。たとえば、業務を執行するときに過失があれば、執行役または取締役として、責任を負う可能性があります。この善管注意義務というのは、英米法ではDuty of Careというのですが、一般的に執行役や取締役として、会社をケアしなければいけないのに、それを怠って損害を生じさせた場合に、責任を負う可能性があります。
難しいかもしれませんので、例を挙げておきましょう。
会社がお金を銀行から借りたとします。そして、借りるときに提出した書類に虚偽の記載があって、それを見過ごしたとします。あとで、お金が返済不能になったとした場合には、虚偽記載の看過を咎められる可能性があるのです。注意義務に反したとされて責任を負うこともありえるのです。
忠実義務と責任-Duty of Loyalty
次に、忠実義務という義務を負います。Duty of Loyaltyといいますが、簡単にいえば、会社に忠実でなければならないということです。具体的に言うと、抹茶ソフトクリームを売っている会社があるとしましょう。そうすると、その会社の執行役は別のあずきソフトクリームを売る会社の役員をやっていると、抹茶ソフトクリーム会社の売り上げに響くかもしれませんし、情報漏えいの可能性もあります。そうすると、競業他社に関係するときには、その情報を開示して了承をもらっておかなければなりません。
多岐にわたってコンサルタントなどをされている方が、一つの会社の役員になる場合には、気をつけなければならないポイントです。忠実義務に違反しても、責任問題になる場合もありますので、気をつけなければなりません。
社内での紛争
社内でも、紛争に発生する場合があります。役員であれば、金銭の使途を明らかにすることを要求される(Accounting)場合もあります。かりに株主が日本にいるお友達またはお友達の会社が100%株主となっている場合、雇われている役員に対して、会社の会計を明示するように請求することができます。このような内部紛争は実際少なくありません。
以上の3点見るだけでも、かなり責任は生じる可能性は秘めています。役員になるとしても、注意して業務を行わなければなりません。次回さらに続けていきたいと思います。
風邪もインフルエンザも猛威を奮っているようなので、体調に気をつけてまた一週間がんばっていきましょうね。