December 06, 2010
クリスマスが近づいてきましたが、大切な人たちのプレゼントを何にするか頭を悩ませる季節でもあります。最近ではインターネットショッピングが主流になってきましたので、いろいろなショッピングサイトを研究している方も多いのではないでしょうか。
さて、今回は最近の永住権に関する話題を取り上げていきたいと思います。2010年12月3日にアメリカ連邦議会の上院を通過した法案についてです。家族法と移民法の交差点の問題です。
この法案(上院1774号法案)はテネシーに住む家族にまつわる法案で、テネシー州の上院議員による議員立法です。どのような内容かというと、あるアメリカ人男性がいました。彼はイラク戦争で2008年に戦死しました。残されたのは日本国籍を持つ女性で、結婚した時には、戦死した夫の子どもを身ごもっていました。その日本人女性は、戦死した夫との子供と、その夫の親とともにテネシー州に住みたいと考えましたが、移民法の問題が発生しました。
どのような問題かというと、この夫婦の結婚は、日本の方には馴染みがないでしょうが、代理人による婚姻(Marriage by Proxy)という手続でした。
アメリカでは、一般的に結婚をするということは、第三者の前で2人揃って結婚を誓うという手続が採られます。盛大に教会の牧師さんの前で行う場合もありますし、市役所で行う場合もあります。とにかく、夫婦が二人揃って誓うというのが原則なのです。物理的に2人揃っていないと、原則としてアメリカでは婚姻と認められないので、夫が戦争に行っていると、結婚ができないことになってしまいます。
そこで、不在中の夫婦の一方が電話などの方法によって、スタンバイをしつつ、その代理人が第三者の前に物理的に立ってもう一方の配偶者と結婚を誓うという方法が慣習として確立してきました。これを代理人による婚姻と呼びます。
主に、軍のなかでは戦地に赴く兵士のために、一般的に認められている手続です。戦争があると増える婚姻手続なのです。 歴史は古いようで、私が確認したところ、ナポレオンもこの方式で結婚をしたそうです。ちなみに慣習として確立してきたこの代理人による婚姻ですが、たとえばカリフォルニア州では、2004年に立法化されています(カリフォルニア州家族法350条)。イラク出兵がはじまってから、ずいぶん活発にこの婚姻手続が利用されていることがわかります。今回取り上げているアメリカ人男性と日本人女性の夫婦もこの手続で結婚をしたわけです。
ところが、アメリカ移民法はこの代理人による婚姻を認めていません。別にアメリカが特殊ではなく、多くの国では認めていないようです。
アメリカ移民法では市民権を持っている配偶者がいれば、もう一方の外国人配偶者は比較的容易に永住権をとることができます。しかし問題は移民法における「婚姻」の定義なのです。通常認められている婚姻手続であれば、どの国の婚姻手続でもみとめられます。ところが、結婚する方法は国々や文化によっていろいろ違いがあるものです。2008年には、アメリカ移民法上、ガーナの慣習婚が問題となった事例がありました。同様に、今回の代理人による婚姻も問題となりました。
移民法上、代理人による婚姻は認められていないので、結論として、この日本人女性はアメリカの永住権が取得できないという状況になってしまいました。子供は親がアメリカ国籍を持っていますので、アメリカ市民権を取得できるわけですが、その子供を育てるお母さんが、アメリカに長期滞在できない状況になってしまっているのです。このような状況で、戦死した夫の家族がなんとか、この日本人女性をアメリカに滞在させたいと働きかけて、今回の法案につながったわけです。
今回の法案は、非常に狭い範囲での法改正の提案です。すなわち、戦死した配偶者と代理人による婚姻をしていた外国人配偶者に永住権の申請適格を認めるという範囲に限られている法案なのです。
今回のことから2つ思うことがありました。
一つは、確かに今回のようなケースで夫が戦死してしまう場合には、その外国人配偶者にアメリカ滞在資格を与えないと子の養育が問題となり得ます。しかし、同様のケースは、配偶者が戦死をしているということを除いては、起き得るケースです。たとえば、すでに子供がいるカップルが結婚をする直前に一方が死亡してしまい、残された外国人がアメリカに滞在ができないという状況が想定されます。このようなケースに対応するきっかけになれば良い法案だと思いました。
もう一つは、あまり詳しくは書きませんが、今回の日本人女性のケースであれば、アメリカに滞在する方法は他にもいくつか考えられると思いました。日本とアメリカの家族法と移民に関する法律をうまく使うことで、合法的にアメリカに滞在できたのではないかと思うのです。
以上が、最近の移民法に関するニュースに関しての記事ですが、アメリカは議員立法が多くて興味深い法案がたくさんでてくるので、日本にはない醍醐味がありますね。
それでは、また次回まで。寒くなってきましたので、皆さんお体には気をつけてお過ごしください。
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