法律ノート 第1226回 弁護士 鈴木淳司
Aug 17, 2020
暑い夏ですね。温暖化など起きていないという米国大統領はクーラーを使わないでも大丈夫なのでしょうか。先日、私の事務所で勤務していて日本に戻った弁護士とその奥さんから、やっと念願の男の子が産まれたというニュースをもらいました。不妊治療などもして、不安だったと思いますが、とても元気そうな子でした。私もとても嬉しかったです。最近は、コロナの影響で毎日何人「死亡」した、というニュースばかりで、心もなんだか「死」と「病気」のことにシフトしてしまっていたように思います。でも、新しい命も誕生しているのですね。困難な時期に産まれて、きっと強い子になるでしょうし、我々も、新しい命からここの持ちようを習っていきたいところです。
引越手配まで終えていたのに契約破棄。訴える術は?(1)_1226
さて、今回から新しくいただいている質問を考えていきましょう。
いただいている質問は(コロナ以前の質問ですが)、まとめると「日本から現地法人(米国カリフォルニア州)赴任してきている者です。家族も帯同しています。前任者から引き継いだアパートメントに住んでいたのですが、新たに新しい物件を見つけ、勤務先の許可も得られたので引っ越す予定でした。すでに、新居の入っているマネージメントとも家賃等話しがついて、引越し日まで決定していました。それにあわせて従来のアパートには、引っ越す旨を話して了承を得ていました。ところが、手付を支払い、契約書にサインをするという段階になり、「他に貸す人が決まったので、話はなかったことにしてくれ」といったニュアンスのメールを受け取り、直接話しても埒が明かない状況でした。今まで住んでいたアパートには話を伝え、なんとか継続して住むことができましたが、また一年間の契約がなければいけないということで泣く泣くサインをしました。このような場合、なにか契約に違反したということで、新居になるはずだったマネージメントを訴えることができないでしょうか。引っ越しの用意や、色々な手続きを初めてしまって、大損害が発生してしまっています。」というものです。
約束違反と法律違反
コロナになってから、だいぶ都市部の賃貸住宅事情が緩和されてきたという話は聞きますが、それでもベイエリアは家賃も高く、一体このまま不動産経済が維持されるのか、疑問でもあります。
一時期は、賃貸物件でも複数の競争が日常茶飯事で、今回相談されている方もそのような状況で災難に遭われたようですね。 「一度貸すといったので、その約束に乗ったのに反故にされた」という感じでしょうか。約束を反故にするのは、理由如何を問わずに良くないことです。しかし、いくら腹を立てたところで、たとえば、待ち合わせ時間を厳守しない人に対して訴えるぞ、といっても法律沙汰にはなりませんよね。
したがって、どのようなところで、法律が介入する程度の「約束の反故」になるのか、考えていきたいと思います。
借主貸主 テナントとランドロード
さて、家を借りるには、難しい法律用語でいうと「賃貸借契約」という契約を締結することで法律的に借主(テナント Tenant)になることをいいます。
貸主は日本では「大家」とも言いますが、アメリカではランドロード(Landlord)と言います。
法律上は、貸主と借主という用語が使われます。
この賃貸借契約ですが、通常は賃貸借契約書というものが貸主と借主の間で締結されて、どのような内容かが記載されることになります。
ただ、もともと契約というのは、口約束でも立派な契約になります。
ですので、スーパーで野菜を買うのも立派な売買契約になります。
一方で、スーパーで、「この契約書に署名してください」とは言われませんよね。署名するとしても、クレジットカードの利用のためだけです。賃貸借契約も基本的には口約束でも成立します。
カリフォルニア州では書面で契約
しかし、カリフォルニア州では、一年間以上の賃貸借を対象とする場合には、書面でなければならないということが決められています。
また、今回質問にもある不動産を扱う業者などは、一年間以内の賃貸借でもトラブルを防ぐために原則として書面での契約を行うのが実情です。
今回すでに質問者と新しい物件のマネージメントは賃貸借に向けてかなり詳しい話し合いをしていた段階にあります。家賃とか、賃貸借の期間とか、いつ引っ越すか、などですね。
一方で、契約書というのは、まだサインしていない段階にあるようです。このような場合、なにか法的に言っていけるのか、というのがポイントになってきますので、次回続けて考えていきましょう。
今週はどこも暑さが半端ないですが、体調に気をつけてまた一週間がんばっていきましょうね。暑さでコロナが弱ってくないかなと祈っていますが。
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