法律ノート 第1052回 弁護士 鈴木淳司
April 4, 2017
先週、一緒に仕事をしている日本の弁護士とお客様と夜の食事会になりました。この弁護士は、熊さんみたいに髭を生やしている60代なのですが、風貌が宮﨑駿そっくりなのです。日本食レストランに行ったのですが、店員が全員、宮﨑駿本人と間違って、もう少しで撮影会になるところでした。そこまで顔は似ていないのですが、髭が決めてだったようです。周りが本当に宮﨑駿じゃないんだ、と言っても店員の方が信じてくれないのです。私は大笑いして見ていました。よく「この世に3人は自分そっくりの人がいる」といいますが、有名人に自分に似ている人がいると大変でしょうね。
「『遺言執行者になって欲しい。』どうする?」[1]
さて、今回からまた皆さんからいただいている新しい質問を考えていきたいと思います。
いただいている質問をまとめると「ベイエリアで、長期に渡って住んでいる者です。すでに、子供達は巣立っているのですが、子供の学校関係を通しておつきあいを長い間続けている夫婦から、遺言で遺言執行者になってくれないか、と打診を受けています。その夫婦のお子さんも大きくなり、日本に戻ってしまったため、今は、夫婦のみがカリフォルニアに住んでいる状況です。遺言の執行など、私はまったく知りませんが、できることなら力になってあげたいとも思っています。遺言執行者とはどのようなものなのか、教えていただけないでしょうか」というものです。
遺言執行者とは?
遺言執行者と聞くとなんだか、重々しい感じがしますし、責任もかなりあるような印象を受けるかもしれませんね。カリフォルニア州では、遺言執行者をExecutorと呼びます。執行する人という意味ですね。ここでは、遺言執行者という日本語を使っていきたいと思います。
さて、遺言執行者というのは、簡単に言ってしまえば、遺言を残した故人になりかわって、残された財産を指示通りに分けるという役割を負う人をいいます。人は他界してしまえば、持っている財産について、幽霊にでもならない限り、どのように分配するのか指示は出せませんね。
したがって、生きている間に自分の財産について、死後どのように処分するのかを決めておくのが残された人たちのためにもなるので、遺言というものをつくります。また、アメリカでは生前信託(トラスト)という制度が一般的なので、遺言と平行して信託をつくります。
なぜ、残された人たちのためにも、遺言や信託をつくるかというと、よくお聞きになると思いますが、「遺産の骨肉の争い」などを避けるためです。10年かかって裁判で争うような場合もあるので、できるだけ、はっきり財産の処分について、生前に決めておくことが周りに迷惑をかけない重要事項でもあるわけです。
遺言執行者、誰がなれるのか?
遺言執行者というのは、遺言に沿って、残された財産を分けていく責任を負いますが、通常家族の誰かを指定するのが一般的です。夫婦であれば、相互に指定したり、子供が大きければ子供も指定できます。兄弟でも良いです。
ただ、遺言を書く人が生活をしている場所に近いところに住んでいる人の方がベターである側面もあります。不動産の売却が必要になるとか、貸金庫を整理するとか、かりに第三者に任せるとしても、コントロールが効くのは近くに住んでいる人の方なのだと思います。
もちろん、今回質問されている方のように、信用できる友人の方でも、執行者に指定できますし、弁護士や銀行なども指定される場合があります。
遺言執行者の指定方法
この遺言執行者の指定というのは、遺言のなかに書くだけなので、通常は指定された人は、遺言が公になるまでに知らないことになります。
もちろん、口頭で、今回のように遺言執行者になってほしい、と頼まれることもありますが、法律で事前に執行人になる人の同意をとっておかなければならない、ということではないので、遺言の記載を見なければ執行人に誰が選任されるのかは、わかりません。
また、場合によっては、執行者に指定された人が、色々な理由で執行者になることを断る場合もあります。断られた場合には、裁判所を通して、適任な人が選任されることになります。
遺言については、信託との兼ね合いも含めて、何度も法律ノートで取り上げてきました。もちろん、最近法律ノートの読者になった方もいるわけですが、もし質問があれば、再度取り上げても良いと思いますので、質問をお待ちしております。
次回は、引き続き遺言執行者にフォーカスを当てて考えていきたいと思います。
春を楽しみながらまた一週間がんばっていきましょうね。