法律ノート 第1538回 弁護士 鈴木淳司
Aug 22, 2026
最近、生成AIのヘビーユーザーになっています。中学生の頃からプログラミングはしているので、何をどうやるのかはある程度わかっていますが、時代が変わりました。いわゆる「コードを書く」、とか「プログラミング」というのは人がやるものではなく、AIがやるものになったように思います。私も数時間を使えば、スマートフォン用のプログラムを作ることができる時代になりました。
弁護士のなかでも、かなり活用している方だとは思いますが、弁護士の仕事の9割方はAIに取って代わられる時代ももうすぐのような気がしています。
最近AIを活用して感心したのは、トイレ掃除です。ちゃんと綺麗にしているトイレでも、なかなか「サボったリング」のようなものが取れないのです。で、住所を入力し、状況を詳しく説明すると、その土地の水の性質や、水道がどのようになっているのかまで解析し、適切なクリーニング方法を聞いたら、すっきり綺麗になりました。大したことではないのかもしれませんが、洗剤のラベルだけ見ていたらわからないことを教えてもらったような気がします。
さて、今回から新しくいただいている質問を皆さんと一緒に考えていきましょう。
いただいている質問をまとめると「日本からカリフォルニア州に留学している大学生です。私の友人と、とある量販スーパーに買い物に行ったときに、友人が食品を万引きするのを見ていて、その後一緒に捕まりました。私自身、万引きはしていませんが、一緒にいたことは否めません。友人は前にも同じことをやっていたようで(ビデオが残っているようです)、警察にも事情を聞かれました。今悩んでいるのが、万引きで裁判になるか、ということです」というものです。
友達だったら、そういうことしたら止めろよ、と思うのですが、質問者の方には申し訳ないですが、そのご友人のやっていることを許容していたのか、一緒にやっていたのか、と他人からは見えてしまうかもしれません。ご質問の核心は「起訴されるのか」という点ですが、結論からいえば、起訴される可能性は充分にあると思います。そのうえで、有罪になった場合には、その店に出入りできなくなるという生活上の不利益と、F1ビザ保持者としての移民法上の不利益といった問題が生じる可能性があります。以下考えていきましょう。
まず、万引きがカリフォルニア州法上どう扱われるかを整理します。州刑法(Penal Code)459.5条は、「ショップリフティング(Shoplifting)」という独立した犯罪類型として定めています。営業時間中の商業施設に窃盗の意図をもって立ち入り、持ち去った、あるいは持ち去ろうとした物品の価額が950ドルを超えない場合、というのが条文の定義で、原則として軽罪(Misdemeanor)として処罰されます。950ドルを超えれば、通常の窃盗罪や建造物侵入窃盗罪(Burglary)として重罪(法定刑で1年以上の禁錮が規定されている罪)で起訴される余地が出てきます。食品であれば軽罪の範囲でしょうが、「軽罪だから大したことはない」とは思わないでください。
ここで注意していただきたいのが、カリフォルニア州において2024年11月の住民投票で成立し、同年12月に施行された住民投票36号(Proposition 36)です。
以前の法律ノートでもご紹介しましたが、これにより、過去に二回以上の窃盗前科がある者については、950ドル以下の万引きであっても、検察の裁量で重罪として起訴することが可能になりました。ご友人について「前にも同じことをやっていたようで、ビデオが残っている」とのことで、防犯カメラの映像が保存されているということは、過去の行為についても、今回とまとめて立件され、重罪で起訴される可能性があります。実際のところコロナ以降、量販店の多くは損失防止のための専門部署を置き、同一人物の再来店を記録として蓄積しています。
では、実際には万引きをしていないと言われる質問者の方はどうでしょうか。ここで考えなくてはいけないのが、カリフォルニア州刑法第31条です。この条文は、実行行為を自ら行った者だけでなく、その実行を幇助・教唆した者(Aiding and Abetting)も、すべて「正犯(Principal)」であると定めています。自分の手で商品をカバンに入れていなくても、犯罪の成立を知りながらこれを助け、促進する意図で関与していれば、実行犯と同じ罪責を問われうるということになります。
もっとも、原則論としては、単にその場に居合わせただけ、いわゆる「単なる同席(Mere Presence)」では幇助犯は成立しない、というのがカリフォルニア州の確立した考え方です。知っていた、見ていた、逃げなかった、というだけでは足りず、実行を援助・促進する意思と、それに向けた行為が必要とされます(殺人罪など例外はあります)。法理論上は、質問者の方が、万引きを見ただけでは「一緒にやっていない」という主張も一理あります。
しかし、ここが実務の難しいところです。裁判で無罪を勝ち取れるかという問題と、そもそも起訴されるかという問題は、まったく別物なのです。検察官が起訴を決めるのに必要な水準は「相当な理由(Probable Cause)」であって、有罪判決に必要な「合理的な疑いを容れない証明(Beyond a Reasonable Doubt)」よりもはるかに低いのです。二人で一緒に入店し、一緒に万引きした商品をレジに通さない状態で店を出て、一緒に身柄を確保された、という外形的事実があれば、検察官が幇助あるいは共謀(刑法182条)を疑って起訴に踏み切ることは、充分にあり得ます。有能な弁護士は起訴にさせないように、ネゴをする一つの機会と捉える場面でしょうね。
ちなみに、日本もアメリカも同じですが、通常量販店などの店側は、多くの場合、店を出た時点で万引犯を捕まえます。法律上は、法律理論は別としても、物を自分の衣服に隠したり、外からみて、自分の物のように店内で扱うと(日本では、占有を自分の配下に置く、と言った表現で言います。)窃盗(万引)が成り立ってしまいます。犯罪がすでに成立しているということを「既遂」といいます。しかし、開き直ったりする人もいるので、店外に出るまで待ってから捕まえるのですね。
次回、今回の質問者の方が裁判になり、有罪になってしまうとどうなるのか、考えていきたいと思います。
子どもたちも学校がはじまり、子どもを持つ私の所属する事務所の人達も忙しそうです。コロナがまた流行ってきているというニュースもありますが、体調に注意してまた一週間頑張っていきましょうね。
このシリーズを読む
- 第1回(本記事):万引きを黙認。罪になる?(1)_1538
- 第2回:(次回公開予定)有罪になった場合の生活上・移民法上の影響
関連する米国法律リソース
- カリフォルニア州刑法 459.5条(ショップリフティングの定義)California Penal Code §459.5
- カリフォルニア州刑法 31条(正犯・幇助・教唆)California Penal Code §31
- カリフォルニア州刑法 182条(共謀)California Penal Code §182
- 住民投票36号(Proposition 36)公式投票情報ガイド カリフォルニア州務長官(PDF)
- カリフォルニア州裁判所 刑事事件セルフヘルプ California Courts Self-Help
免責事項
本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、特定の個別案件に対する法的助言ではありません。記載内容は執筆時点(2026年8月)の情報に基づいており、法律や規制は変更される可能性があります。
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