アメリカで進む移民政策の変更とは

Washington DC Capitol of the United States

じんけんニュース 弁護士 鈴木淳司 06-30-2025

2025年6月は、アメリカ国内外で多事に直面して、行政もかなりドラスティックな動きがありました。
ロサンゼルスでの抗議活動、イラン攻撃による中東情勢の緊迫化など、世界の様々な出来事が複雑に絡み合い、その影響は移民政策にも色濃く反映されています。
米国現政権の移民政策は、その第2期に入り、中南米諸国からの移民、中国(特に共産党関係者)、学生、そして難民といった広範な層をターゲットに、厳格かつ広範な締め付けを強めています。

最近移民法協会の集まりがあり、当事務所の担当者も担当しました。
その内容からいくつか特筆すべき点をご紹介したいと思います。

1:現政権下の移民政策の現状

現政権は、就任から6ヶ月の間に、以下のような多岐にわたる政策変更を矢継ぎ早に実施しています。総ざらいしてみましょう。

(1)人道支援プログラムの停止とTPSの終了
CHNV(キューバ、ハイチ、ニカラグア、ベネズエラ)パロール、ウクライナ人向け「Unitingfor Ukraine」、家族再会仮放免(パロールといいます。)プログラム(FRPs)、CBP One(国境での予約システム)など、複数のプログラムが停止されました。
また、ベネズエラ、ハイチ、カメルーン、アフガニスタンなど、複数の国に対する一時的保護ステータス(TPS)の終了が進められています。
これにより、およそ100万人以上の人々が「トワイライト・ステータス(不安定な地位)」に置かれ、ステータスを失う危機に瀕しています。

(2)難民受け入れプログラムの停止
米国の難民受入プログラム(USRAP)が無期限に停止され、「米国に完全に適切に同化できる難民のみを受け入れる」という政策が宣言されました。
例外として、アフリカ系ボーア人難民の受け入れが開始されています。

(3)DHS内組織の廃止
国土安全保障省(DHS)内の市民的権利・自由局(CRCL)、市民オンブズマン事務所(OIDO)、米国市民権・移民業務局オンブズマン事務所(CIS Ombudsman)といった監督・監視機関が廃止されました。

(4)情報収集と審査の強化
全ての米国市民権・移民業務局(USCIS)の申請において、ソーシャルメディア情報の収集が義務付けられ、思想的スクリーニングが追加される新方針が導入されました。
また、新たな思想に関して、「クリック・アンド・リボーク」政策がビザ受給者に対して導入され、入国後のビザ取り消しが可能になります。

(5)「自己国外退去」プロセスCBP Homeを利用して出国する個人に対して1,000ドルと航空券を提供する「自己国外退去」プロセスが導入されました。

(6)「登録」プロセスの導入と訴追強化
1940年の外国人登録法に基づく非市民登録要件が復活し、特定の非市民に連邦政府への登録を義務付けるプロセスが作られました。
同時に、登録の不履行や登録証明書の不携帯を犯罪とする条項の訴追が優先されています。
これにより、多くの非正規滞在者は、登録して強制送還に直面するか、登録せずに刑事訴追に直面するという困難な状況に置かれています。

(7)国境での軍事区域設定
ルーズベルト保護区の国境に新たな軍事区域が設置され、軍事敷地内への侵入に対する訴追が行われています。

(8)政府リソースの再配分
数千人の連邦法執行官が移民執行に転用され、国防総省(DOD)が移民の輸送を支援し、USCIS職員1,000人がICE(移民税関執行局)の執行任務に再配置され、FBIリソースの3分の1が国内の移民執行に振り向けられるなど、DHS内外の資源が強制送還活動に重点的に投入されています。

(9)移民裁判所の政策変更
移民控訴裁判所(BIA)の規模が縮小され、聴聞なしで亡命申請を却下する権限が承認されました。

(10)州および地方政府への資金剥奪
移民支援を行う州、地方自治体、非政府組織(NGO)への資金供与が停止されました。

このように、不法滞在の移民に対する強制送還が激増しており、そのための組織づくりも急ピッチで行われてきました。
ICEによる移民収容は急増しており、1日あたりの平均収容人数は40,000床の予算があるにもかかわらず、50,000人に近づいています。
収容者の大半は犯罪歴のない人々です。2025年4月には、そして、DHSが民間企業と最大60,000床の収容ベッドを追加する契約を結んだことが報じられています。
これにより、収容ベッド数が125,000床以上に増加し、連邦刑務所システム全体に匹敵する規模になる可能性があります。

2:合法移民に対する影響

USCISの各種申請書(I-129F、I-130、I-140、I-485など)の平均処理時間は、FY2025(2024年10月~2025年2月)のデータを見る限り、以前の会計年度(FY2017~FY2024)と比較して、全体として大きな変化は見られないようです。
同様に、国務省による移民・非移民ビザの発給総数も、FY2020から2025年2月までの期間で大きな変動は見られず、パンデミック初期の落ち込みからは回復しているように見えます。
一方で、法的な移民プロセス全体に対する「AIの役割」や「思想的スクリーニング」、そして噂される「渡航禁止令」など、その運用や審査基準に大きな変化が加えられる可能性が示唆されています。

3:宗教活動家の永住権取得

(1)ビザバックログの現状
永住権EB-4カテゴリーの「特定の宗教活動家」ビザの割り当ては、年間5,000件に制限されています。
2023年3月には「特定の宗教活動家」を含むEB-4カテゴリーのビザブルテンが「利用不可(U)」となり、多くの国でバックログが発生しました。
そして、2025年5月のビザブルテンでも、宗教活動家のビザ番号は「利用不可」と示されており、2025年10月1日までは利用できない見込みです。
そうすると、宗教活動家としての永住権申請は大幅に遅滞することが見込まれています。

4:宗教活動家永住権取得のための代替戦略

このような厳しい状況下で、宗教活動家が永住権を取得するためには、非常に「クリエイティブ」なアプローチが求められています。

(1)PERM(労働証明)を使う方法
労働省による労働証明(PERM)プロセスは、代替となる移民ビザオプションの一つです。
しかし、非現金報酬の使用不可、米国人労働者の不足証明、信仰へのコミットメント要求など、独特の要件が存在します。

(2)国家利益免除申請を使う方法もありえます。
高度な学位を持つ者(8CFR204.5(K)(2)で定義)は、国家利益免除(NIW)を申請できる可能性があります。

(3)多国籍企業の管理者(Multinational Manager)としての申請も考えられます。
多国籍企業の管理者として永住権を申請する可能性も挙げられますし、非営利団体も特定の状況下ではこのカテゴリーを利用できる場合があります。
そして、非移民ビザオプションで時間を稼ぐという方法論もありえます。
宗教活動ビザであるR-1ビザは、米国での滞在が5年間に制限されており、この期間を使い切ると、1年間米国国外に居住しない限り、R-1ステータスでの再入国や滞在延長はできません。
そこで、H-1Bビザ、B-1ビザ(R-1の代替として)、F-1(学生)ビザ、なども考えられるかもしれません。

もちろん、上記の内容が今激動の移民業務においてのすべてではありません。
しかし、皆さんがアメリカに滞在し続ける場合には、多かれ少なかれ影響はでてくる問題ではあります。
今後もじんけんニュースで、逐一取り上げていきたいと思っています。
次回まで、皆さんお元気にされてください。


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