トランプ政権下の外国人の入国・滞在-NTA(Notice to Appear)を中心に-
Sep 14, 2018
0 まえがき
オバマ前政権下では、アメリカへの移民が増え続けていましたが、現政権になってから、移民は減り続けています。移民局が発表しているデータがそれを表しています。今までアメリカにはない、移民政策が現状で展開されています。よく人から、「なぜ、入国管理などの記事を書いているのに、『じんけん』なのだ」と言われますが、おっしゃる通りで、もともとJinken.comは移民や入国管理のことだけではなく、広く人が関わる権利義務について取り扱っていきたいという意味があります。今回考えるトランプ政権の進める政策は、今まで「不法移民を許さない」と言っていたはずですが、「合法的に滞在している外国人」だけでなくアメリカに「永住する外国人」に対してまで、「外国人」というくくりで締め付けをはじめました。明らかにやりすぎです。
今回の記事を書く過程でかなりの文献に目を通しました。執筆者の意見から入って恐縮なのですが、現政権の移民に対する舵取りはあまりに「やりすぎ感」があります。
現在「景気が良い」ということを盛んに現政権はアピールしようとしていますが、まったく先を見ていないように思います。
考えてみてください。
優秀な移民がたくさんいることで成り立っている国が、移民を排除する動きを加速させれば、これからアメリカはさらに移民が減り、魅力がない国になっていくでしょう。
しかし、今移民政策を打ち出している連中も、もともと移民ですし、大統領の妻も、いわゆる「チェーンイミグレーション」で家族を連れてきている張本人ですし、現大統領の母親家族もチェーンイミグレーションの恩恵でアメリカにいるわけですね。
サンフランシスコの国際空港で働いている移民局の職員を見てください。英語もロクに話せないアジア人などたくさんいるわけです。自分たちのことは棚に置いて、今現在移民しようとしている外国人を締め付けるなどというのは、常識がないと思います。
10年後、いや数年後には、アメリカにとっては明らかにマイナスが発生する政策を推し進めています。実際に、今回考えるNTA政策ですが、トランプ大統領の妻の移民弁護士が反対を表明する始末です。「もう、こんな国やめた」という人が出てくるでしょうし、そこをチャンスとして、他の国が優秀な英語を話せる人を抱き込むということもありえるのでしょうか。
合法にアメリカに住み、働き、生活をしている外国人にも影響する状況になっています。Jinken.comの趣旨に合致する人権問題が十分に発生する下地が現状できていることを皆さんに理解していただきたいと思います。
今回、以下詳述するNTAの問題ですが、移民業務にもかなり影響を与えると思います。
ほとんどの「移民弁護士」というのは、宣伝はどこにでも載せて、記事なども色々書いているようですが、法廷などほぼ経験はゼロの人たちが大多数です。日本では行政書士という職業があって、行政に対する申請書などを主に手がける人たちがいますが、アメリカにいる(特に日本でアメリカ移民うんぬんとやっている人たち)移民「弁護士」はほぼ、行政書士業務をしているのが実態です。弁護士というのは、法廷に立ってなんぼの職業です。
なぜ、このような指摘をしているかというと、今回から移民法業務には密接にNTAが問題になりますが、これは移民裁判所、ひいては連邦裁判所で戦う必要がでてくる問題です。
ですので、大多数の移民法専門弁護士は太刀打ちできない問題となることは必須です。
本当に法廷業務の経験を踏まえて移民業務を扱っている法律事務所に頼まないと、外国人の申請者の不利益となります。今後の移民業務についてはくれぐれも事務所は選ばなければなりません。
1 NTAとはなにか
移民局が2018年7月5日に公表した、アップデートにある定義を要約すると「NTAすなわち、A Notice to Appearとは外国人に送達される書面であり、その書面には非通知外国人の移民裁判所への出頭場所および日時が記載されているもの」となっています 。本稿では、省略してNTAと呼ぶことにします(*1)。
このNTAに対応したことがない移民弁護士もたくさんいると思いますが、使われているフォームはI-862です (*2)ので、確認してみてください。このフォームはアメリカ政府が該当する外国人が強制送還の対象であるとみなした場合に利用されます。
I-862を受け取った外国人は、行政審判である移民裁判所での審判を受けなければなりません。このI-862を受け取った外国人の裁判所出頭は義務付けられていて、出頭を拒否したり、理由はともかく不出頭であったりすると、「不出頭」ということでそのことも移民法違反として捉えられます。したがって、I-862というのは、かなり強力に裁判所に外国人を出廷させるための政府側の手段といえます。
さてI-862というのは、多くの弁護士も対応したことがない場合が多いと思いますが、もともと難民申請のときに利用されてきました。
移民局のデータでも、最近まで十中八九、難民申請の際に利用されてきたことがわかります(*3) 。難民を認定しない日本に住む日本人にはピンとこないかもしれませんが、アメリカではかなりの数の外国人が難民認定を求めてやってきます。ただ、自分が難民です、というだけではなく、自国に戻ると政治的な迫害に遭うことを主張して認めてもらわなければなりません。
そして、この迫害を「信用性のある強迫された状況」であるとアメリカ政府に認めさせなくてはなりません。そして、現場の移民局の職員ではなんとも、判断ができない場合も多く、慎重に審理しなければならないというときに、難民申請者の利益を考えてI-862を渡してきたのです。
難民申請が妥当かどうか、現場ではなく、裁判所に慎重に吟味してもらったほうが良いであろうということなのですね。難民申請をしている人についても、その場で申請を拒否されるよりは、待って裁判所に判断してもらったほうが良いと思います。ですので、今まではI-862というのは、このような事実関係について慎重な吟味が必要な場合に使われてきました。I-862の趣旨をよく理解していない、またはまったくの趣旨違いことを念頭において、現政権は「移民狩り」に利用しようとしています。
2 NTAはなぜ法律上必要なのか
アメリカの憲法(修正第5条および修正第14条)においてデュープロセスという単語が使われています。日本でも馴染みがある言葉だと思いますし、アメリカ憲法にしたがった考え方が敷衍しています。
アメリカ憲法でデュープロセスというと、色々な切り分けができるのですが、大きく分けて、法律は万人にフェアな内容でなくてはならない、という実体的な考え方と、法律に基づく手続きは万人にフェアでなくてはならないという手続的な考え方があります。両方のコンセプトは、国家の中核になる考え方です。法律もフェアでなくてはならない、手続きもフェアでなくてはならないのです。上記1で考えた今までのI-862を難民認定に利用するというのも、デュープロセスを使って手続的にフェアでいたいという精神の現れなのですね。これが一つの切り分けの方法です。
もう一つの切り分け方法を読者の方に知っておいていただきたいのは、修正第5条のデュープロセスは主に連邦の法律に適用され、修正第14条は州のデュープロセスに適用される憲法の条項ということです。
移民法は、連邦政府の専権事項ですので、今回問題になるのは、修正第5条のほうだということになります。未だに数十年前に受験したときの司法試験でよく覚えているのは、この修正第5条の出だしです。「No person shall」と書き出されています。簡単に読んでしまうとその意味をよく捉えられないのですが、アメリカ国民であろうとなかろうと、ということが書いてあるわけです。そして、アメリカ憲法はアメリカの国土全体を統治する法ですから、アメリカ国内にいれば、国籍、性別、門地、など何ら関係なく、デュープロセスの対象になるわけです。この国内にいる人に平等にフェアな法律によって裁くというのが、アメリカの強さの根源であり、司法の魅力の根底にあるのです。
さて、移民法をデュープロセスの観点から少々確認してみましょう。
まず、アメリカ国外のアメリカ大使館・領事館でビザや永住権の発給を求める申請をすると、申請者本人の申請に関しては、本人が大使館・領事館に出頭してインタビューを受けることになります。かりに、この出頭した面接で、ビザ・永住権申請の拒否を食らってしまった場合、再度申請をする以外に救済策はほぼありません。
なぜなら、アメリカ「国外」での申請のため、アメリカ憲法で定められたデュープロセスが発動しないからです。一方で、アメリカ国内にいったん入ってしまっている外国人にはデュープロセスが適用されます。アメリカ国内でビザの種類の変更などをした場合には、拒否にあっても、再考を求めたり、行政審判を求めたり、最終的には、連邦裁判所に判断を求めることができます。私が具体的な相談において「できるならアメリカ国内での判断を受けることのほうが良い」という場合には、かならずこのデュープロセスに関する経験に基づいているのです。
このように、アメリカ国内にいる外国人に対しても、確実にデュープロセスがあるわけですので、移民局にしても、「はいさようなら」と言って簡単に外国人を強制送還処分にできるわけではありません。ちなみに、アメリカに入国を試みている外国人が入国を許されず強制送還処分になる場合がありますが、これは、まだアメリカ国内にいるわけではないので、デュープロセスが適用されないからなのです。一方で、いったん、何らかの形でアメリカ国内に入っていれば、外国人でも、移民に関する法律は移民裁判所による判断、連邦裁判所による判断を受けることができるのです。
上述した難民申請の事実認定で判断が難しい場合、本人が積極的に移民裁判所の判断を求めなくても、移民局側から、移民裁判所の審判を受けられるようにするツールがI-862ということになります。I-862を送達されれば、外国人は移民裁判所において、事実関係の判断を受け、その判断が不服であれば、司法の判断を求めるべく連邦裁判所に提訴できるシステムになっています。ある意味今までI-862は助け舟的な要素があったのです。
このように外国にいる外国人には、もともとデュープロセスが適用されないので、NTAは不要なのですが、アメリカ国内にいる外国人が最終的に司法判断を求めるためのデュープロセスの一環として、NTAは用意されていたのですね。
ところが現政権は、このNTAを違った趣旨で利用しはじめて、アメリカ国内にいる外国人の権利さえも脅かしはじめています。
3 現政権のNTAに関する今までの動き
2017年2月20日にジョン・ケリー国務長官が移民局関係者に対して「国益保護に資するための移民法の執行について」という通達を出しました(*4) 。要は、国土安全保障省に対して、1万人の増員をして、移民法違反について強制を強化するように指示したものです。犯罪歴のある外国人、不法滞在をしている外国人などについて、主に、強制送還手続を迅速に行うように指示したものでした。まあ、この指示は現政権が強く、不法移民、犯罪歴のある移民を排斥しようと声高に主張した産物といえるものでした。
2017年2月20日の通達によると以下のカテゴリーの外国人をNTAを送達する対象とするように積極的に行動することを国土安全保障省に命じました。主な法律に基づくカテゴリーは以下のとおりです。
1) 入国前に前科がある場合(移民法上の道徳違背の罪)、麻薬関連の前科がある場合、売春関連の前科がある場合、人身売買の前科がある場合、マネーロンダリングの前科がある場合など。(移民法第212条(a)(2)項)
2) 入国前にテロ行為など国家に対する行為が認められる、また思料される場合(移民法第212条(a)(3)項)
3) 米国入国後に有罪歴がある場合(入国後5年以内の道徳違背の罪)、禁錮一年以上の実刑に処された場合(移民法237条(a)(2)項)
4) 米国入国後にテロ行為などを行ったと思料された場合(移民法237条(a)(4)項)
5) 入国に際して虚偽の情報・書類を政府に提出した場合、いわゆる移民詐欺行為(移民法第212条(a)(6)(c)項)
私がある程度まとめましたが、以上のカテゴリーは、法律、すなわち議会が決めたもので、常識的な範囲内です。どこの国でも、犯罪者やテロ関連者には厳しく対応するのが普通ですし、弁護士であっても、「しょうがない」というレベルではあります。
しかし、ここからが現政権が突っ走っているところです。
このメモランダムが言うように、移民局は「I-862を外国人に対して送達する権利」が認められています(*5) 。しかし、行政の一団体である移民局がI-862を送達する根拠については、議会の制定する法律では明確にされていません。そこで、現政権は、メモランダムで以下のカテゴリーの外国人に対してもI-862を送達できるということを言い出しました。この時点で法律に逸脱した行政の越権行為とも考えられます。このメモランダムでは以下の場合にI-862を外国人送達できるとしています。
1) 刑事的に有罪とされている場合
2) 刑事的な起訴がされて、刑が確定していない場合
3) 刑事的に有罪となり得る罪に問われた場合
4) 詐害的、虚偽的な申し出を政府に対してした場合
5) 社会福祉制度を濫用した場合
などが列記されています。アメリカ国内にいて、無罪を本当に争っている外国人もいます。私もそのような経験はいくらでもあります。
しかし、刑事事件に少しでも関ってしまうと強制送還の対象となり、行政の管轄する移民裁判所においても、手続きが開始されるということになるわけです。このメモランダムを読む限り、かりに刑事手続で無罪になったとしても、I-862に基づく行政審判において強制送還相当とされてしまう危険が生じました。刑事事件を知り、さらに移民行政にも詳しい弁護士はかなり限られてしまいます。このような状況に陥った外国人を助ける方策はかなり実際に限られてしまいます。
もちろん、このメモランダムには、限定的な記述もありますが、基本的に有罪となっていない場合にも幅広く強制送還手続に乗せるという趣旨であります。1万歩引いて、ここまでは犯罪や、テロなど、たしかに国によっては深刻と捉えることも考えられ、ディズニーのプリンセスではありませんが、現政権ではアリエルことかもしれません。
しかし、この、主に一般的な行政内部通達の内容がエスカレートしはじめました。2018年6月28日にNTAの通達についての具体的なガイダンスが発表されました(*6) 。この6月28日のメモランダムは、さすがに私は違法性を帯びるだろうという感覚になりました。
4 2018年6月28日(同年7月5日最終改定)の規定について
現政権が行政権力を握ってから、2年弱になります。中間選挙を控え、できることはできる限りパフォーマンスとしてやっておきたいという気持ちはあるでしょう。そして、現政権が据えた移民局関係の役人たちも、できるだけ厳しく移民に対して接することを覚えてきているのだと思います。その権化が、2018年6月28日付けのメモランダムです(*7) 。このメモランダムでは、私が見るに大きく2つの驚く点が盛り込まれています。
ひとつは、USCISがI-862を外国人に対して送達する権限をほぼ無制限に拡大している点です。
ここで、私が「移民局」と言っている行政機関について、少し詳しく考える点があります。
同時多発テロ以降、アメリカは国土安全保障省(Department of Homeland Security,略してDHS)という機関をつくりました。移民や、テロなどに総合的に対応する省庁です。このなかにいくつもの「局」が統合されたり設置されたりしました。
その一つが、ICE(Immigration and Customs Enforcement)と呼ばれるところで、移民・関税執行局とでもいいましょうか。主に、国境において、取り締まりを行う局です。そして、もうひとつにUSCIS(United States Citizenship and Immigration Services)という主に、外国人のビザや永住権、市民権の取扱をする局があります。全部で30近くある局のなかに、この2つが存在します。
今までは、犯罪や強制送還手続きなどは、ICEの十八番でした。ほぼすべての強制送還事由については、ICEが対応してきたのです。私も、刑事事件で、移民絡みのことがあると、出てくるのは必ずICEでした。軍隊上がりの人も多い部署です。思い出話ですが、ある国際犯罪に関する事件を受任していたときに、女性のICE捜査官に私が尊敬を込めて「Officer」(上官)というと、「私はAgentだ」、失礼だと言われたことがあります。現場を担当しているのだから、捜査官なのだ、という気持ちが強いのでしょう。どちらでも良いだろ、と思いましたが、このように、地位にかなり敏感でプライドも高い現場担当者が集まっているのが、ICEです。一方で、USCISは書類をいじるのが主な職場です。
今回のメモランダムでは、ICEだけではなくUSCISに対しても、積極的にI-862を発行・送達せよ、と言っています。そして、以下述べますが、その数はかなりの数に及びます。合法的な移民関係の書類審査をしている人たちにも、強制送還をする手助けをしなければならない、と言っているのです。今後、強制送還の事例は限りなく増える可能性がありますし、職員の負担もかなり増加します。現状で、USCISの運営は申請料から主に成り立っていますが、今回の現政権の意向を忠実に実行すれば、ビザ、永住権等の申請料は格段に値上がりしていくと思われます。
もうひとつの今回出されたメモランダムに関して、信じられない点は、なんら、犯罪やテロに関係しない合法的な移民も強制送還の対象になってしまう可能性が出てきた点です。
今回のメモランダムによると、上記3で詳述した、犯罪者、テロ関係者に加えて、USCISは以下に該当する外国人に対してI-862を送達しなければならないと規定しています。
1) 深刻な虚偽に基づいて政府の福祉受益を受けていると疑われる場合、たとえNTAが福祉受益に関して以前問題にされなかったとしても、今回NTAの対象になる。
2) 以前、強制送還の対象になっていないNTAが以前送達されたとしても、移民裁判所で問題にされていない犯罪がある場合。
3) 市民権の申請において、道徳違背の罪があり、市民権申請が拒否されたことがある永住権者
4) 移民関連の申請が拒否され、その結果不法滞在者となった外国人
という4つのカテゴリーが記載されています。USCISはもともと議会で議論されていたときは、移民の申請等を処理する部門でした。ですので、ほとんどの「移民弁護士」と呼ばれる人たちはこの部署を相手に対応していればよかったのです。ところが、このメモランダムでUSCISは、強制もする部署になりました。ですので、USCISのぼんやりした申請案件で、いきなり移民裁判所が出てくる可能性がでてきました。
ですので、外国人は申請時から、移民裁判所を想定した申請をする必要が出てくるのです。なかなか、深刻さの感じがつかめないと思いますので、今回の現政権による移民締め付けに関して具体例を使って考えていきましょうか。
5 現時点での移民行政下で、想定される歪
(1) ケース①
永住権保持者のAさんは、オバマ政権下で、医療に関する受給を受けていた。子供は市民権を持っていて、同様に医療に関する受給を受けていた。そもそも永住権者が公的な給付を受けることはなんら問題なかった。現状の移民行政に不安を感じ、アメリカ市民権の申請をはじめた。しかし、公的な受給が問題になり、市民権申請をUSCISに行ったところ疑われ、NTAを送達され長年住んでいたアメリカから強制送還の手続きが開始され、移民裁判所への出頭を求められる。
(2) ケース②
日本からアメリカ子会社の設立およびビジネスの関係構築のために出張ベースのためにBビザを取得して渡米していたBさん。最初に与えられた期限は6ヶ月。しかし、会社事情のため6ヶ月を超えてアメリカに滞在する必要があるため、Bビザの延長をするも、却下。今までは、延長申請中は、合法的にアメリカに滞在できるとアドバイスを弁護士から受けて、アメリカに引き続き滞在。ところが、Bビザの却下とともにNTAがBさんに対して送達される。
(3) ケース③
Cさんは、アメリカ永住権の審査過程で以前、犯罪歴が問題になり移民裁判所で審判を受ける。Cさんにかんして、移民裁判所から無事永住権の許可の審判がおりる。現政権になる。家族も全員アメリカに住んでいることなどから、市民権の申請をしたところ、USCISからなんらかの虚偽の申告があったことから、NTAが出される。移民裁判所で過去問題にならなかった不正受給などの点を弁明しなければならなくなる。
(4) ケース④
Dさんは、シリコンバレーで働くエンジニア。Hビザで就職中。Hビザは一度延長が可能なので、延長申請をする。延長申請中は、合法的に滞在できると弁護士からアドバイスを受ける。Dさんは、継続して働いている。ところが、延長申請等(I-129申請)は近時10万件程度が拒否されている(2017年の移民局発表統計)が、Dさんも些細な理由で拒否される。Dさんは、他にビザもなく、アメリカ滞在する資格がないため、理論上不法滞在とされる。USCISは、NTAを送達する。まったく犯罪歴も不正受給歴もないDさんは、移民裁判所に出廷し、強制送還手続の対象になる。
上記のように、合法的になんら問題がなく、アメリカに滞在している外国人が、強制送還手続の対象に簡単になってしまう政策を現政権は取っているわけです。最初は「不法移民」に対して厳しく対応すると言っていましたが、現在は、不法移民をもはや作出するような政策になってきました。ここで、上記ケース④のDさんについて、もう少し深刻な状況を考えてみましょう。
Dさんは、H-1Bビザが特に理由もなく、厳しくなってきた審査が原因で延長拒否に遭ったとしましょう。さらに、追い打ちをかけるようにNTAが届きました。Dさんの雇用主も、ビザがない外国人を雇うことは危険を感じます。Dさんとしては、「こんな国にいてもしょうがないし、移民裁判所の出廷なんて時間の無駄だ」という本音を持っているとしましょう。
実際に、ビザの延長が拒否される可能性もかなり高くなってきていますので、有り得る事例です。さらにICEだけでなく、USCISがNTAを出せるとなると、移民裁判所は今でも混んでいるのに、さらに混むのは必須です。Dさんの出廷は2年先ということもありえます。2年間仕事もなく、アメリカ滞在なんてできない、となると自国に帰ってしまおう、と思うはずです。
ところが、NTAを無視すると、裁判所に来なかった、ということで、それが移民法上罪になります。弁護士は、「Dさん、裁判所に出廷しないと、裁判所は不出廷の罪を着せるので出廷しないと・・・」という話になってしまいます。Dさんは、不法滞在を継続しつつ、もともとのHビザの拒否に関して、不服を申し立てて争い、さらに行政審判でダメなら連邦裁判所で争わなくてはならなくなります。今回の現政権による行政通達により、Dさんは、もともとのビザ発給について争い、さらに不法滞在に関して移民裁判所とも争わなくてはいけません。仕事もなくなっているかもしれません。
このような状況を想定して、現政権が今回の通達をしているとは到底思えませんが、単純に今回の通達を突き詰めるとこのような結果になります。あまりにも浅はかな、行政政策に翻弄される、「移民大国」アメリカでがんばる外国人は絶句するしかありません。
ビザや永住権の拒否レートもあがっていくばかりですし、法律業務をしていても、現政権のやっていることが、何を目指しているのか、暗澹冥濛に感じるのは、第一線で実務を担っている私だけではないと思います。
*2 サンプルはここを参照。https://www.justice.gov/eoir/dhs-notice-appear-form-i- 862
*3 https://www.uscis.gov/sites/default/files/USCIS/Outreach/Upcoming%20Nationa l%20Engagements/PED_CredibleFearandReasonableFearStatisticsandNationalityR eport.pdf 参照。
*7 https://www.uscis.gov/news/news-releases/uscis-updates-notice-appear-policy- guidance-support-dhs-enforcement-priorities
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https://jinken.com/win/index.htm
当選なさった皆さま、おめでとうございます!
当選した後は、一定期間、事務手続きに加えて大小の不安も抱えがちです。
移民政策の変更にも、柔軟に対応しています。
▼強制送還にあってしまったという問い合わせが増えています
何度も渡米している方でも、例外ではありません。
ご準備は周到に!
まずは疑いを持たれないことが、とても大切です。