法律ノート 第1094回 弁護士 鈴木淳司
Jan 29, 2018
アメリカの司法制度ー連邦法?州法?
移民法が争点となって、議会は紛糾し米国政府が数日間機能不全に陥りました。私も議会の動きを注意深く見ていたのですが、大統領関係のニュースは、メディアとの諍いはいつものことですが、大統領が美術館に絵画の貸出を希望したら、金のトイレなら貸せると、言われてしまったニュースと、大統領専用機の冷蔵庫2台が25億円で入れ替えられるというニュースしかない状況でした。随分、切ない状況ですね。私は税制改革がどのようにアメリカ国内に影響していくのか興味深く見ていますが、みなさんはどのような角度から米国の政治を考えられていますか。
今回から、また新しく皆さんからいただいている質問を考えていきたいと思います。ある日本の弁護士の方からの質問をまとめます。
「米国法制度は連邦法と州法の二重構造で、裁判所も連邦裁判所と州裁判所の二重構造で、いずれも原則三審制とのことですが民事・刑事の事件について、連邦裁判所・州裁判所の管轄をどのように分けるのでしょうか。わける基準を教えてください。」というものです。
他にもいただいている質問では、「国立公園内で飲酒運転の罪で逮捕されましたが、通常の飲酒運転とは裁判が違うと言われています。どのような違いがあるのでしょうか」とまとめられるものがあります。これらの質問について以下考えていきましょう。
日本の弁護士の皆さんも、アメリカの実務については理解しにくい部分もあり、さりとて、質問をするのも、どうしたら良いのかわからないときが多々あると思います。
ぜひ、法律ノートを利用していただければ幸いですし、私も法律家からの質問であると、法律的な論点について気づかなかったところが、気づけたりもします。
面白いのは、今回2つの質問を扱いますが、弁護士の方も、飲酒運転で逮捕された方も同様のポイントを質問されているということです。ですので、一般の方が「はてな」と思うことは法律家も同じように思っているのかもしれません。
連邦制度ーFederalismー州が独自の政府を持つ
まず、今回は質問を考える前提として、連邦制(Federalism)という大きなトピックを考えておきたいと思います。連邦とつく国は現在世界で少なくありません。しかし、日本人の考え方だとピンとこない可能性はありますし、無理はありません。
アメリカというのは、50州ありますが、もともと一つひとつの州は独立して機能できる政府を持っています。カリフォルニア州でも、立法、行政、そして司法の三審制があり、一つの自治体として機能できます。ここが日本の都道府県とは違うところであります。
簡単にいうと、明日、連邦政府がなくなります(今回の連邦政府の機能停止のような感じでしょうか。)ということになっても、各州はそれなりの機能をして、日常生活レベルでは問題がないと思います。日本はそうはいきません。
もちろん、都道府県のレベルで議会はありますし、行政も動いていますが、司法はそうはいきません。日本はやはり中央集権的な「日本国」の政府がないと動かないことが多々でてくると思います。
州の自治権は強力
なぜ、このような対比をするかというと、アメリカの州は、日本の都道府県に比べて、かなり強力な自治権を持っているということがわかります。
アメリカの連邦制というのは、連邦政府が各州のやっていることに対して介入を最低限にしたうえで束ねるという形を取っています。
連邦政府が出来る過程での起草者の論文を見ると、まさに州に対する最小限度の介入しか許さない、という関係を取っているのです。
連邦は「上級」ではない
一番、この連邦政治をわかりやすい形で表しているのが、ドラマの警察ものでしょうか。ある場面で事件が起きて、州の老練な警察官が捜査をしています。そこに、連邦警察(FBI)が乗り込んで来て、連邦も捜査していると告げます。連邦警察の捜査が気に食わない州の警察官が、独自に捜査を続ける、というパターンです。
こういうドラマで、州の警察官が連邦の警察に直立敬礼することはありませんね。もともと、アメリカの警察はしないのかもしれませんが。日本の警察庁と各都道府県警察の関係とは違って、連邦の警察が即、州警察の「上部機関」になることはないのです。
日本人だとなんとなく連邦の方が「上」という感じを抱きますが、このような感覚はアメリカにはない、ということを理解してください。
次回、続けていきたいと思います。
東京で雪が降って、来るメールはどれも、寒さに閉口しているような感じです。春は必ずやってきますので、体調や事故に注意してまた一週間がんばっていきましょうね。