法律ノート 第1074回 弁護士 鈴木淳司
September 12, 2017
日本では最近、政治家のスキャンダルが頻繁にニュースになっていますが、政治の問題とはまったく関係がなく、いわゆるゴシップ記事だらけですね。アメリカでも、ロシアとの関係云々など、いわゆる「疑惑」的な話が多いのですが、色々な政治の分野で本論が埋まってしまって、消費者が本当に必要としている情報がメディアでもネットでも見つからないような状況になってきているように思います。情報が氾濫すると、何が本論なのか見極める利用者側の目というのが逆に試されている時代なのでしょうか。
子どもの監護と養育費[2]-1074
少々間が空いてしまいましたが、第1072回で尻切れトンボとなってしまった問題を考えていきましょう。
「日本在住のシングルマザーです。アメリカで結婚、出産しました。夫とアメリカで離婚し、子供を日本(関西圏)で育てています。夫はアメリカと日本を行き来し、夏休みの間は子供と時間を過ごすという取決めでしたが、夫の仕事の都合もあって、それもできずに、再度、子供の監護について揉めています。揉めている一つの理由として、今まで養育費を夫はまったく支払っていません。私は日本にいるのですが、このような場合に養育費の請求をまずできないものでしょうか。私は、私の父母に頼って肩身が狭い思いをしながら、子供を育てています。」という質問です。
日本在住で外国に養育費請求することの困難
この質問を前回考えたときに、なかなか法律家として一般的に考えると難しい問題が生じるという現実を考えました。
今回質問されている方は関西に子供さんと住んでいますが、子の父親はアメリカにいるわけです。日本の弁護士に相談すれば、日本における手続きでなんとかならないか、考えることになります。当然です。そうすると、日本における考え方としては、日本で養育費に関して判決を取って、その判決をアメリカで執行する、ということが法律論的には考えられます。悪くありません。
一方で、日本に住みながら、アメリカでの養育の取立ての問題をアメリカにいる弁護士に相談することも、お金はかかるでしょうし、簡単ではないと思います。
養育費の取立て制度
実はこのような問題について、基本的に弁護士に相談しなくても解決する方法があるのです。
たぶん、法律実務書などにもあまり載っていないのですが、基本的な考え方を法律ノートで考えておきますので、ぜひ法曹の方も、問題を抱えている方も活用されてください。
アメリカでは、養育費の取立てをいちいち裁判所に申し立てなくても、すでに養育費の支払いが決まっていれば、その相手方の住むところを管轄する検察局(District Attorney)が取立てを代行してくれます。少なくともカリフォルニア州はそのようなシステムになっています。
したがって、養育費がもらえなくて困っている今回相談されている方のような場合には、直接相手方の男性が住むところを管轄する検察局に連絡をして、取り立ててもらうということができます。法律で、その取立ての詳細についても規定されているのです。
もちろん、このような取立てのための連絡や手続きをするのが個人には難しいかもしれません。そういう場合には、経験のある人や、弁護士などに、この手続をするためのサポートを頼めるか聞いてみるのが良いと思います。場合によって、検事局は通訳も用意してくれると思います。
日本から養育費請求を認める判例
実は、以前にも法律ノートでご紹介したかもしれませんが、今回いただいている事例のように、日本在住で、未成年者の養育をしながらカリフォルニア州にいる夫に養育費を請求したところ、拒否してきた事由を私の所属する事務所で争いました。
一審は「日本に在住している子の母はカリフォルニア州に住む元夫に養育費は請求できない」と棄却されたので、もちろん控訴しました。そうしたところ、一審判決が破棄されて、私の所属する事務所の主張が認められました。裁判例として、今でも残っています。この裁判例が確定してから、日本に在住している人でも、検察局は積極的に養育費を請求してくれるようになりました。
根底にあるのは子どもの利益保護と養育負担の公平
子育てが大変な時期にシングルマザーで仕事もしなければならないと大変でしょう。
でも、上記のようにアメリカでは子供の利益の保護、養育の苦労の軽減を積極的に考えてくれています。諦めないで、こういった制度を活用されたら良いと思います。
また、次回新しくいただいている質問を考えていきたいと思います。
天気が暑かったり、いきなり涼しくなったり、と忙しいですが、暑い時はまだまだ暑いので、脱水状態にならないように気をつけてまた一週間がんばっていきましょうね。