法律ノート 第1069回 弁護士 鈴木淳司
August 8. 2017
サンフランシスコ国際空港で、関西から来ている少年野球の御一行を見かけました。ベイエリアの姉妹都市交流の一つのようです。まだ、小学生のような感じでしたが、はじめてアメリカに来た子供達もいるでしょう。子供の頃から、このような国際交流をして、自国を離れスポーツで触れ合うというのは素晴らしいことですね。きっと一生の思い出になるのでしょう。
会社で使い込みを発見。解雇するには?[2]
さて、前回から考えてきた「私が所属する日系の会社(未上場)で、会計監査が行われたのですが、従業員の一人が会社のお金を私用の目的で使い込んでいることが発覚しました。私は人事担当なので、何度か本人と話をしていますが、本人は否定しています。解雇を適法に行うにはどのようにしたらよいのでしょうか。」という質問を続けて考えていきたいと思います。
就業規則や法律違反がないか
前回をまとめると、まず事実関係を整理し、就業規則および法律に抵触する行為がないのかを確認するということが必要ということを考えました。
今回続けて、実際に質問されている具体的事例にどのように対応した方が良いのか、考えていきましょう。
具体的な対応_事情を聞き、記録を取る
まず、問題となっている本人からも事実の聴取をされているようですので、本人の言い分も必ず聞き、聞き取った内容は残しておくことが良いと思います。一刀両断に切り捨てるのは、よくありません。
本人が「使い込み」を否定しているのであれば、事実関係との齟齬についてちゃんと説明を受けるべきです。そのときに、聞き取りをするのは複数人いるほうが良いと思います。後日、聞き取り中に何か問題視される可能性がある場合、その主張を封じることができます。
このような社内での聞き取り段階で、従業員側が弁護士に相談し、弁護士をつけることもありえます。弁護士がついたということがわかった場合には、強引に聞き取りを続けるのではなく、会社側も速やかに弁護士に相談して、弁護士同士での話合いにする必要がでてきます。
具体的な対応_退職を促す
かりに、従業員が「使い込み」を否定していても、事実関係を精査して、使途不明金があるとすれば、実際に自己都合退職を促すこともできます。まずは、口頭で本人の意向を聞いてみることが良いかもしれません。
自己都合退職とするかわりに、法的責任は問わない、という交換条件も提示しても良いかもしれません。退職届(Resignation Letter)のみを受理して終わる場合もありますし、和解契約書的な書面を作成する場合もあります。
事例によって異なると思いますが、できればまず話合いを持つということが段取りとしては適切です。いきなり、解雇とすると、あとで訴訟になった場合、なぜ解雇をする前に、自己都合の退職を吟味しなかったのか問題にされる場合があります。会社側としても、具体的事例に即して吟味に吟味を重ねた、ということを明示できたほうが良いのです。
退社か解雇か
退職を促し、従業員本人も自分の意思で退職すると、会社側にとって訴訟のリスクを減らすことができます。すなわち、不当「解雇」ではなく、自己都合の退職なのですから、「解雇」にまつわる訴訟を回避することができるのです。もちろん、100%リスクを回避することは不可能かもしれません。たとえば、「無理やり退職に追い込まれた」などという主張は法律上可能だからです。
しかし、一般的に言って、自己都合で退職する場合には、「解雇」には該当しないので、訴訟リスクがグッと減るのです。
退職した場合に、会社側が気をつけなければならないのは、退職日までに未払賃金が残っている場合には、その賃金を退職日までに支払う義務など、残給与の精算です。これを怠ると、あとで課徴金を乗せられて請求される可能性はあります。
上記のように話合いが可能であれば、まず退職の可能性を探るのが両者によって良い選択肢であります。ただ、従業員側が頑なに、退職を固辞した場合には、会社としては解雇を考えなければなりません。
次回ここから考えていきたいと思います。
日本の政治もまた色々再編が進みそうな状況にあるようですが、周りの意見を聞くと、あまり期待は感じられませんでした。どの世界でも人材不足なのかもしれませんね。
まだまだ暑い夏ですが、体調管理に注意してまた一週間がんばっていきましょうね。