法律ノート 第1024回 弁護士 鈴木淳司
September 13, 2016
ずいぶん今週に入って涼しくなってきました。フットボールシーズンが始まると、秋だなぁ、と思うのはアメリカに住んでいるからですね。サンフランシスコはまた暑い日が戻ってくるのでしょうが、皆さんのお住まいの地域は少しずつ秋を感じられているのでしょうか。これからアメリカはお祭りが多くなってきます。
今回から新しくいただいている質問を考えます。電子メールでの質問が溜まってしまって、考える機会が遅れている質問もあり、心苦しいですが、いただいた質問を考える順序が前後しますので、ご容赦いただけると幸いです。
一見緊急に見える質問には私が直接お答えしていますが、一般的な質問は毎週法律ノートで考えられる程度で考えますので宜しくお願いいたします。数回前の法律ノートでボランティアの精神を守っていきたい、と書きましたが、法律ノート読者のために、一ヶ月に数回、場所を決めて無料の相談時間を作ろうかとも思っていますので、そのような機会ができれば、ぜひ緊急と思われる方は直接お話しできればと思います。
「弁護士費用ー成功報酬か否か」[1]
さて、今回考える質問をまとめると「最近、日本から米国に進出してきた企業で会計の分野で働いている者です。会社の売掛金の回収で弁護士に頼もうと思って、色々話を聞いているのですが、成功報酬で請け負ってくれる事務所と、事件の終了まで弁護士の費用を負担しなければならないと言う事務所があります。どのように弁護士費用を考えれば良いのかわかりませんが、何か指針はありませんか」という内容です。
以下考えていきましょう。
そもそも「成功報酬」とは?
まず、今回質問がある内容で、「成功報酬」というものはどのようなものか考えておきたいと思います。
私の所属する事務所でも、「成功報酬で受任をお願いできないか」という依頼が多く聞かれます。
成功報酬というのは、簡単に言えば、依頼する側はお金を払わず、解決したときに弁護士の報酬を払うということを考えられているようです。こういった解決をしたときにのみ弁護士の報酬が発生する依頼方法を「完全成功報酬制」と言ったりします。英語ではContingency Fee Agreementなどと呼びます。
日本の弁護士費用の支払方法
日本では元来「成功報酬」というと、事件の規模や性質によって、「着手金」という一定のお金を弁護士に支払って事件が進行し、解決したときに「成功報酬」を支払うという方法論で大部分の事件が契約されてきました。完全に成功報酬制というわけではなく、着手金という要素があるのですね。
アメリカの「完全成功報酬制」
アメリカで「完全成功報酬制」というと、日本でいう着手金という概念がなく、最初にお金を払わなくても、無料で委任をして、事件が解決したときにのみ弁護士の費用が発生するという違いがあります。
最近は日本の若い弁護士が「完全成功報酬制」ということを売りにしているようですが、これは着手金は要りません、と言っていることになりますね。
事件を依頼する側からしてみれば、お金がかからない方が良いに決まっていますね。それは、個人でも企業でも変わりはないとは思います。一方で、弁護士は仕事をしているのに、いつ入るかわからない報酬を対価としているわけです。
アメリカ「完全成功報酬制」の裏側
日本人の方々で「アメリカで裁判を提起するなら成功報酬で弁護士に頼むよ」と言っている方がいますが、それはあり得ません。弁護士側はそうは考えないからです。完全成功報酬制で弁護士が事件を受任しようと思うには、必ず最終的にお金が取れるからだ、という考えがあります。
すなわち、原告側で事件を提起した場合に、被告側からお金が取れるであろうと、かなりの確率で思っている事件に限られるということになります。ここがキモになります。
素人の方は、裁判を起こせばお金を取れると思われる方もいるのだと思いますが、法律の世界はそのように出来ていません。「破産」という制度もありますし、判決を取ってもお金がない、という人や企業はたくさんあります。何億ドルの判決があっても、回収対象となる財産がなければ「空振り」ということになるわけです。そうすると、「完全成功報酬制」で受任する事件も限られてくるわけです。
次回ここから考えていきましょう。