法律ノート 第1048回 弁護士 鈴木淳司
March 4, 2017
ずいぶんベイエリアも春らしくなってきました。ワシントンDCではもう桜が開花しそうだとか。あれだけ雨が多かったのに、春に向けて季節は加速していっているようです。ガーデニングをはじめる季節でもありますが、今年は何を植えるかそろそろ考えなければと思います。昨年は干ばつの影響で、栽培を控えていましたが、今年は思いっきり植えたいと思っています。
「委任状の法的意味合い」[1]
今回は、法的に作成された委任状に関する質問をみなさんと一緒に考えていきたいと思います。いただいている質問をまとめると「私ども夫婦は、日本国籍を持ち、永住権許可のもとアメリカに長年滞在していましたが、年齢も考慮して、夫婦で日本に戻ることになりました。子どもたち(2人いる)ももう大きくなって、すでに独立しています。そこで、今私達が住んでいる家を賃貸に出し、子どもたちに管理をさせようと思っているのですが、なんでも委任状を用意すると、賃貸の手続きなどが楽になる、ということを聞いています。いったい委任状というのはどのようなもので、どのように作成すれば良いのでしょうか。」というものです。
そもそも「委任」とは
「委任状」という言葉は日本でもよく使われています。私達弁護士も、クライアントの方々から委任状を得ることで仕事ができるように、主に法的な仕事を人に頼む場合には、「委任状」というものを作成します。
アメリカで言うと、Power of Attorneyというのが、委任または委任状を意味するのですが、アメリカの法律を考える前に、よく日本で言う「委任」状、というものが何なのかここで考えておきたいと思います。
委任というは、基本的に法律的な事柄について人に任せるときに使う用語です。なので、離婚の手続きを弁護士に「委任」する、といった感じで使います。法律以外の事務手続きを頼む場合には、正確には「準委任」と呼びますが、内容的な違いはさほどありません。現実問題として、準委任といってもなんのことかわかりにくいので、一般的には、法律問題にしても、法律が絡まない事実的な問題にしても、「委任」と言っていると思います。
委任と請負の違いー請負は結果まで約束
委任というのは、ある事柄についての対応等を「任せる」という契約ですから、ベストを尽くしてもらうということが前提になっています。ただし、結果がどのようになるかは約束をしない契約です。弁護士に事件を委任して、負けてしまった、としても、その責任を追求するのは、別途過失などがない限りかなり難しいわけです。
委任に似たコンセプトに「請負」というものがあります。請負というのは、委任と違って、「結果」を約束するものです。大工仕事や修繕工事、プログラムの開発などは「請負」契約であることが多く、なぜかといえば、完成品させること、または完成品を引き渡すことが契約内容になるからです。
通常、不動産の管理などを頼むことは、何か完成品があるわけではなく、委任契約となるのですね。したがって、委任状というものが必要になるのです。
委任契約と委任状の違い
ここで、委任契約と委任状というものも厳密に言うと使用方法に違いがあります。
委任契約というのは、委任をする人と受任する人の間の決め事を書いて書類にするものです。たとえば、報酬や何をやるのかを細かく書いておくことになります。
一方で、委任状というのは、受任者が第三者に対して、正当に委任された内容につき「受任したのです」ということを示すための書類ということになります。この委任状というのは、内部で使う書類ではなく、外部に対して委任関係があることを示す書類ということになります。そうすると、委任契約というのは、委任者と受任者の両方の署名があるのが普通ですが、委任状というのは、委任する人だけの署名で成立するのが一般的であるということになります。
今回、委任というのが実質的にどのようなものか考えましたので、次回Power of Attorneyというのは、どのようなものなのか、どのように作成するのか、について詳しく考えていきましょう。
私は久しぶりの天気なので週末はゴルフがしたいな、と思っています。みなさんも屋外にでて、春の花や天気を楽しんで、またリフレッシュして、一週間がんばっていきましょうね。