州をまたぐ引越。遺言の作り直しは必要?[1]





法律ノート 第1037回 弁護士 鈴木淳司
December 13, 2016
最近私の事務所でも、今までの電話回線式電話をやめていわゆるIP電話に切り替えました。電話線はもう不要となったわけです。音質もよく、問題もありません。さらにずいぶんコストも安くなったように思います。また、FAXもすべて紙がない状態でやりとりができるようになりました。私が弁護士になってはじめて使った携帯電話は、筆箱みたいな大きさだったな、と思うと、技術の進歩はすごいものですね。
「州をまたぐ引越。遺言の作り直しは必要?」[1]
さて、今回から新しくいただいている質問を考えていきたいと思います。いただいている質問をまとめると「来年、主人の転勤があり、家族ともどもカリフォルニア州から、テキサス州に移住することになりました。以前、弁護士を通じて遺言(トラストはない)を作成しているのですが、州が変わると新しい遺言が必要ということを耳にしました。実際に、新しく遺言を作り直すべきなのでしょうか」という質問です。
アメリカの国の構成と法律
近年、たくさんの企業がコストの高いカリフォルニア州を離れるという話を耳にします。今回質問されている方も、家族全員でカリフォルニア州を離れるということです。アメリカは50の州が集合して、一つの国となっているため、日本のように単一の国家がまず有りきではなく、50の独立した国が集合しているようなイメージが強くあります。実際に、全州にまたがるような案件を統一する法律は、連邦法といって、アメリカ全土に適用されるのですが、多くの法律は、州ごとに制定されます。したがって、州によって、法律が違うということも少なくありません。
ただ、たとえば今回質問されているような相続や遺言に関する法律も、各州ドラスティックに違うということはありません。細かい点などは差異がありますが、根本的な制度は似たようなものなのです。
とにかく、今回の質問は、「州が違えば法律が違う」ということを意識されていることは素晴らしいとおもいますが、読者のみなさんも州をまたいで引っ越した場合には、法律が違ってなんらかの影響はあるかもしれないという意識はもたれた方がよいかもしれませんね。
遺言ー様式主義ー
さて、今回の質問を考えるうえで、遺言というものがどのように成立するかを考えておきたいと思います。まず、今回はカリフォルニア州法を考えてみたいと思います。
カリフォルニア州法には相続法(Probate Code)があり、そのなかに(たとえば、同法6111条)遺言として成立するための最低条件が決められています。法律で決められているということは、法律に沿った形式で遺言を作成しないと有効な遺言とはならないということになります。これを難しい法律用語で要式主義と言いますが、要式主義は、アメリカだけではなく日本でも同様に遺言に適用されています。
遺言が満たさなければならない要件
カリフォルニア州の法律では、概ねまとめると
(1)本人が遺言をする意思があること
(2)遺言だと理解して署名していること
(3)証人が2名以上いること
(4)遺言は書面によること
といった最低限の要素が必要になります。
これらの4つの要素を見ると、かなりベーシックな内容ですから、カリフォルニア州にかぎらず、他の州でも似たような要素が最低条件に組み込まれているはずです。似たような要素が各州の法律に存在するはずですが、注意しなければならないのは、各州の法律で、遺言の要式が決まっているということです。
できれば一度、専門家に相談を
このように各州の法律によって基本的な部分は同じですが、細かい要件などには、次回考えますが、違いがあります。したがって、もし余裕があれば、新居を構える州で、もう一度遺言について少なくとも専門家に相談してみるのが良いかもしれません。とはいえ、なかなかそのような相談をするのも億劫でしょうし、お金がかかります。
とすると、今回の質問にあるように、カリフォルニア州でいったん作った遺言はテキサス州に引っ越してもそのまま有効なのでしょうか。次回、ここから考えていきたいと思います。
サンフランシスコ周辺は雨が多くなってきましたし、山では吹雪になる模様です。寒い季節になってきました。服装に注意しながらまた一週間がんばっていきましょうね。



作成者: jinkencom

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