法律ノート 第1547回 弁護士 鈴木淳司
Oct 25, 2026
アメリカ連邦議会の中間選挙が目前に迫ってきました。ここで深入りした分析はしませんが、一般に、自国が戦時下にあれば、大統領を中心に一致団結しようという機運が生まれやすいと言われます。
現在、アメリカとイランの間の武力紛争が続いていますが、今回の選挙に向けては、これまでとは全く異なる世論の風向きが生じているように感じます。戦争の問題に限らず、今回の中間選挙は、過去に例のない結果をもたらすのではないかと考えています。
法律家の立場から申し上げれば、現政権の発足以降、移民政策は相当厳格な締め付けが行われてきました。この締め付けが直ちに緩和されることはなく、移民関連の行政運用は、当面、現状の温度感で推移していくものと思われます。
さて、前回から、私が最近経験した事件を題材に考え始めました。今回はその続きです。
簡単に振り返ると、現在、レストランや小売店などの商業事業者を標的に、訴訟を数多く提起する弁護士がいます。
視覚障害のある人を原告に立て、テイクアウトや商品販売を行う店舗が視覚障害者にも利用可能なウェブサイトを構築していなかったために、原告が購入機会を失ったという事実を請求原因として提訴してくるのです。障害者保護法制がこうした訴訟にどのように利用されているかについては、前回ご説明したとおりです。
前回は、老夫婦が経営するレストランが知らないうちに提訴され、気づいたときには欠席判決を取られていたところまでお話ししました。私が受任し、無事にこの欠席判決を取り消すことができました。
しかし、本当の攻防はここからです。レストランのウェブサイトの仕様を調査し、サイトを構築した業者から事情を聴取し、さらに、視覚障害があるとする原告が実際に注文を試みたという事実の有無を確認しなければなりません。欠席判決を取り消せたとしても、本案の審理はこれから始まるのです。
この種の訴訟はカリフォルニア州でも大きく報道されており、州としても濫訴対策を講じています。
具体的には、一定の事件について特別な訴訟手続を設けて訴えの利益の有無を早期に検討したり、一定件数以上の訴訟を提起している原告(及びその背後にいる弁護士)に対して高額な追加の提訴手数料を課したりしています。障害者保護を目的として、州議会が事業者の違反行為に法定損害賠償(1回の違反につき最低4,000ドル)を認めたことへの揺り戻しが起きている状況といえますが、立法府の動きは決して速くありません。
また、障害者である原告も、建前上は法律に則って訴訟を提起しているわけですから、被告側が濫訴を主張しても、裁判所で排斥される事例が数多く見られます。
弁護士は、言うまでもなく社会正義の実現と弱者救済を使命としています。一方で、弁護士にも家族があり、事務所を維持していかなければならないという現実もあります。私も駆け出しの頃は、経験を積むために、数多くの立退訴訟を担当しました。立退きを迫られた方々のうち、特に健康上の問題を抱えた方には無償で弁護をしていました。社会正義のため、弱者救済のためであったことは確かです。ただ、今にして思えば、自分の経験を積み、技術を研鑽するという自己の利益のためでもあったのかもしれません。
今回ご相談に来られたのは、小さなレストランを営む老夫婦です。日本から渡米し、自分たちの手でこつこつと築き上げてきたレストランが標的にされたのです。私も日本から来て、自分の腕一本で事務所を築いてきましたので、共感するところは多々ありました。しかし、残念ながら無償で弁護できる事案ではありません。私自身のリソースを割く以上、他の依頼者の方々に対して公平を欠くことになるからです。悩んだ末、特に低い報酬レートを設定し、所属事務所にも説明した上で受任しました。
この種の事件を成功報酬制(Contingency Fee)で引き受けてもらえないかというご相談をよく受けますが、それはまずあり得ません。どの弁護士に尋ねても同じ答えが返ってくると思います。
相手方から損害賠償金を回収できる事件であれば成功報酬制も検討の余地がありますが、今回のようにADAやウンルー法に基づいて訴えられた側の弁護では、うまくいっても「損害賠償金を支払わずに済む」ことが成果となり、相手方から金銭を得られるわけではありません。そのため、アメリカではやはりタイムチャージ(時間制報酬、Hourly Fee)での受任となります。
タイムチャージである以上、弁護活動を尽くすほど依頼者の弁護士費用の負担は増えていきます。しかも、被告側が勝訴しても、自分の弁護士費用を相手方に負担させられる場面は限られています。相手方はこのジレンマを熟知し、それを利用してくるのです。
相手方はこのジレンマを熟知し、それを利用してくるのです。
今回は、欠席判決を取り消すまでの経緯と、訴えられた側が抱える弁護士費用のジレンマについてお話ししました。
次回は、この事件がどのような結末を迎えたのか、そしてスモールビジネスオーナーの皆さんが今からできる対策について考えていきたいと思います。
朝晩はずいぶん冷え込むようになってきました。体調に気をつけながら、また1週間頑張っていきましょう。
このシリーズを読む
- 第1回(本記事):ADAウェブサイト訴訟で訴えられたら(1)_1546
関連する米国法律リソース
- 司法省:ADA第3編(公共施設)の概要 ADA Title III: Businesses Open to the Public
- 司法省:ウェブサイトのアクセシビリティに関する指針 Guidance on Web Accessibility and the ADA
- 合衆国法典42編12182条(公共施設における差別の禁止)42 U.S.C. §12182
- 合衆国法典42編12188条(第3編の救済手段)42 U.S.C. §12188
- カリフォルニア州民法51条(ウンルー公民権法)Cal. Civ. Code §51
- カリフォルニア州民法52条(法定損害賠償)Cal. Civ. Code §52
- カリフォルニア州民法55.56条(建物設備の請求における損害賠償の算定)Cal. Civ. Code §55.56
- カリフォルニア州民事訴訟法412.20条(答弁書の提出期限)Cal. Code Civ. Proc. §412.20
- カリフォルニア州民事訴訟法473条(欠席判決の取消し)Cal. Code Civ. Proc. §473
- カリフォルニア州ビジネス・職業法典6126条(無資格での弁護士業務の表示)Cal. Bus. & Prof. Code §6126
- カリフォルニア州障害者アクセス委員会 California Commission on Disability Access
- カリフォルニア州裁判所セルフヘルプ California Courts Self-Help Guide
免責事項
本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、特定の個別案件に対する法的助言ではありません。記載内容は執筆時点(2026年10月)の情報に基づいており、法律や規制は変更される可能性があります。
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【事務局注(2026年11月)】
小規模事業者に120日間の是正期間を与える法案(SB 84)は、2025年に州上院を通過しましたが、州下院の委員会で審議されないまま、2026年に廃案となりました。この法案も、対象は建物や設備に関する請求に限られていました。(以上、事務局注)
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