法律ノート 第1541回 弁護士 鈴木淳司
September 13, 2026
最近、日本からビジネス関係でサンフランシスコに来られたお客様から聞いた話なのですが、空港での入国審査に2時間近くかかったとのことでした。
ここ1、2年、日本のパスポートであっても二次審査(Secondary Inspection)に回される方が目に見えて増えています。昔のように「日本人は平和な人たちなので、顔パス」という時代ではなくなりました。
さて、前回から考えている質問をもう一度確認しておきましょう。
いただいている質問をまとめると、移民法関係なのですが、「以前アメリカに学生でいたときに、数日病気になって不法滞在をしたと思います。数日です。しかし、現在では過去にオーバーステイをしているとアメリカに入国できないと聞きました。今回久しぶりにESTAで入国しようと考えているので、移民法が厳しくなっているということで懸念しています。過去に不法滞在歴が数日あると、アメリカに入国するのは観光であっても難しいのでしょうか」というものです。
ESTAは「ビザ免除」ではなく事前の自己申告
前回は、3年バー・10年バーは180日を超える不法滞在(Unlawful Presence)が前提であること、そしてD/Sで入国していた学生は当局の正式な認定がない限り不法滞在の日数が発生しない、という整理をしました。
今回は、それでも残る実務上の問題、ESTAの申告と入国審査の話です。
ESTAは、INA 217条に基づくビザ免除プログラム(Visa Waiver Program・VWP)の電子渡航認証です。ビザが要らないと言われますが、法的には、ビザの要件を免除してもらう代わりに、申請者が一定の適格要件を満たしていることを事前に自己申告する仕組みです。
その申請画面には、逮捕歴や薬物、ビザ拒否歴などと並んで、「米国政府から認められた滞在期間を超えて米国に滞在したことがありますか」という質問があります。ご質問者が悩まれるのは、まさにこの一問でしょう。
事実と異なる「いいえ」だけは絶対に避ける
ここで最も大切なことを申し上げます。この質問に事実と異なる「いいえ」を答えることだけは、やめましょう。
INA 212条(a)(6)(C)(i)は、ビザや入国などの移民法上の利益を得るために重要な事実について故意に虚偽の陳述(Willful Misrepresentation of a Material Fact)をした者を、期限の定めなく入国拒否事由に該当すると定めています。
数日のオーバーステイには何の入国拒否事由もないのに、それを隠そうとした虚偽申告のせいで一生アメリカに入れなくなる可能性があるわけです。
私のこれまでの実務経験上、ぼんやり答えてしまったことが、後でトラブルになる事例を何度も見てきました。現状において、過去の入出国記録(I-94)やSEVISの学籍情報は、審査官の端末で即座に照合されます。
はい・いいえ を分けるのは「認められた滞在期間」
では「はい」と答えるべきでしょうか。
ここは、前回整理した法律上の位置付けが効いてきます。この質問は「認められた滞在期間を超えたか」と聞いています。D/Sで入国した学生の「認められた滞在期間」は、滞在資格を維持している間であり、修了後の出国準備期間(Grace Period)を含みます。
在学中に数日病気で休んだだけなら、滞在資格違反にすら当たらず、期間を超えていません。修了後60日以内に出国したのであれば、やはり超えていません。この場合、「いいえ」が事実に即した正しい答えになります。
逆に、I-94に期限日が記載されていて、それを1日でも過ぎたのであれば、「はい」と答えるほかありません。ご自身の記憶だけで判断せず、当時のパスポートの出入国印、I-20、I-94の記録を確認してから申請することを強くお勧めします。
ESTAが不承認でも入国方法あり
「はい」と答えた場合、ESTAは承認されない可能性が高くなります。しかし、それは「入国できない」という意味ではありません。
ESTAが不承認であれば、在日米国大使館又は領事館でB-1/B-2ビザ(商用・観光ビザ)を申請することが考えられます。申請書DS-160にも同趣旨の質問がありますが、面接で領事官に事情を説明し、数日で出国した事実を書面で示せれば、この程度の経緯だけを理由にビザが拒否されることは、私のこれまでの経験ではまずありません。
しかしながら、一方で、ここ二年については、大使館・領事館の審査はBビザに対しても異常なほど厳しく審査され、理由もわからない拒否が連発されています。
これから留学する方は注意をー2026年9月15日の制度変更
もう一つ付け加えておきたいのが、今後留学される方への注意です。
9月15日施行予定の国土安全保障省(DHS)の最終規則により、F-1及びJ-1の入国はD/Sではなく、プログラム修了予定日(F-1はI-20、J-1はDS-2019)と4年のいずれか短い期間を上限とする確定期限付きの許可に改められます。あわせてF-1の修了後の出国準備期間は60日から30日へ短縮されます*。
期限を1日過ぎれば、翌日から不法滞在が自動的に積み上がることになります。
学生ビザも他のビザと同じ扱いになるわけで、「学生だから数日くらい」というのも今まではセーフかもしれませんが、この規則の施行後に入国する方には通用しなくなります。
最後に、ESTAやビザが承認されても、空港での入国審査官(CBP Officer)が最終的な入国許可(Admission)の権限を持っています。
過去の記録について聞かれたら、事実を簡潔に、落ち着いて答えてください。ご質問者の場合、法律上の障害はないと考えますが、記録の確認だけは怠らないでいただきたいと思います。
新学期がはじまり、留学生の皆さんは慌ただしい日々でしょう。体調に気をつけて、また1週間がんばっていきましょうね。
このシリーズを読む
- 第1回(本記事):数日の「オーバーステイ」とESTA入国(1)_1540
- 第2回(近日公開予定):数日の「オーバーステイ」とESTA入国(2)
関連する米国法律リソース
- 移民国籍法212条(a)(9)(B)(不法滞在・3年/10年バー)INA §212(a)(9)(B) / 8 U.S.C. §1182
- USCIS 不法滞在算定の政策変遷(2009年覚書・2018年覚書・Guilford College判決)NAFSA解説
- 連邦官報 F・J・I の滞在期間を固定化する最終規則(2026年9月15日施行)DHS Final Rule
- 米国務省 Travel.State.Gov ビザの拒否・不適格事由(Visa Denials)
免責事項
本記事は一般的な法律情報の提供を目的としており、特定の個別案件に対する法的助言ではありません。記載内容は執筆時点(2026年9月)の情報に基づいており、法律や規制は変更される可能性があります。
本記事の内容に基づいて行動される場合は、必ず専門の弁護士にご相談のうえ、個別の状況に応じた適切な法的助言を受けてください。本記事を読まれたことにより、JINKEN.COMまたは執筆者との間に弁護士・依頼人関係が成立するものではありません。
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*事務局注:
なお、9月15日施行予定の国土安全保障省(DHS)の最終規則は係争中であり、施行日や運用は今後変わり得るため、最新情報の確認をお勧めします。
関連記事
- 移民法速報 2026年9月-移民法の新制度と留学生・永住権申請者・雇用主への影響(9月施行の新制度と留学生への影響を整理)
- 移民法速報 2026年7月-学生ビザD/S廃止・公的扶助審査の厳格化(D/S廃止の背景と学生への影響)
- 移民法速報 2026年8月-アドバンス・パロールと9月の制度変更(出国・再入国をめぐる最新の注意点)
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