数日の「オーバーステイ」とESTA入国(1)_1540

法律ノート 第1540回 弁護士 鈴木淳司
September 6, 2026

いきなり9月になって涼しい日がでてきましたが、寒暖差が激しすぎるように思います。今年はスーパーエルニーニョが来るということなのですが、スーパーでもなんでも良いのですが、地球の寒暖のエアコンがかなり壊れているんじゃないかと思います。この9月15日から留学生の在留期間の数え方を根本から変える新しい規則が施行される予定ですから、日本から留学している学生はかなり、不安なのではないでしょうか。私ももともと日本から来ているわけで、ここまで留学生が締め付けられている時代は今までなかったと記憶しています。


さて、今回から新しくいただいている質問を皆さんと一緒に考えていきましょう。いただいている質問をまとめると、移民法関係なのですが、「以前アメリカに学生でいたときに、数日病気になって不法滞在をしたと思います。数日です。しかし、現在では過去にオーバーステイをしているとアメリカに入国できないと聞いて、今回久しぶりにESTAで入国しようと考えているので、移民法が厳しくなっているということで懸念しています。過去に不法滞在歴が数日あるとアメリカに入国するのは観光であっても難しいのでしょうか」というものです。

「不法滞在」は移民法上2つの概念に

ご質問のような「数日」の話であれば、法律上の入国拒否事由(Ground of Inadmissibility)に該当する可能性は高くないと、私は思います。ただし、ESTAの申請画面でどう答えるか、という別の問題が控えています。今回は「不法滞在」という言葉の中身を整理し、次回にESTAと実際の入国審査の話をしたいと思います。

まず押さえていただきたいのは、日本語で一括りに「不法滞在」と呼ばれているものが、アメリカ移民法上は二つの異なる概念に分かれている、という点です。一つは在留資格違反(Violation of Status・Out of Status)です。学生であれば、学校に在籍しなくなった、許可なく働いた、といった在留条件に反する状態を指します。もう一つが不法滞在(Unlawful Presence)で、移民国籍法(INA)212条(a)(9)(B)(ii)により、「司法長官が許可した滞在期間の満了後に合衆国に所在すること」と定義されています。前者は在留資格を失わせ、後者は将来の入国を拒む効果をもつ。この二つは重なることも多いのですが、常に一致するわけではないのです。

3年バー・10年バーが動くのは180日を超えてから

ご質問者が心配されている「オーバーステイをしていると入国できない」というのは、この後者、不法滞在に関する規定のことです。

INA212条(a)(9)(B)(i)は、不法滞在が180日を超え1年未満の者が自主的に出国した場合には出国日から3年間、1年以上に及んだ者については出国日から10年間、それぞれ入国を拒むと定めています。実務で「3年バー・10年バー(Three-Year Bar and Ten-Year Bar)」と呼ばれているものです。

お気づきのとおり、この条文が動き出す最低ラインは「180日を超える」不法滞在です。数日はもちろん、仮に180日ちょうどであっても、この入国拒否事由には該当しません。法律の文言上、数日の不法滞在それ自体を理由に入国を拒む規定は、存在しないのです。

D/Sで入国した留学生には特別な考慮あり

さらに、学生の場合には、もう一段の考慮が加わります。

ご質問者が留学されていた当時、F1ビザで入国した学生は、I-94に具体的な期限日を記載されず、「D/S(Duration of Status)」、すなわち「在留資格を維持している間」という形で入国を許可されていました。

期限日が書かれていないのですから、いつ「許可された滞在期間が満了した」のかが、一見して分からないのです。ここを現在の政権は咎めているわけです。

この点について、移民局(USCIS)は2009年5月6日付の政策覚書(Policy Memorandum)で、D/Sで入国した者については、移民局が在留資格違反を正式に認定した日の翌日、又は移民裁判官(Immigration Judge)が退去強制を命じた日の翌日から不法滞在の日数を数え始める、という取扱いを明らかにしました。

2018年8月に移民局はこれを改め、在留資格違反があった日の翌日から自動的に数える、という厳しい覚書を出したのですが、大学側が提訴した訴訟で、ノースカロライナ州中部地区連邦地方裁判所は2020年2月、この2018年覚書を無効とし全国的に差し止めました(ギルフォード・カレッジ対ウルフ事件)。政府は控訴を自ら取り下げ、2009年の取扱いに戻っています。

正式な認定がなければ不法滞在は1日も発生していない

つまり、D/Sで入国していた学生は、当局から正式な認定を受けていない限り、法律上の意味での不法滞在は1日も発生していない、という整理になるのです。

ご質問者が「病気で数日」と記憶されている期間についても、移民局から在留資格違反の認定通知を受けた覚えがないのであれば、不法滞在の日数はゼロ、と考えてよいはずです。そもそも、在学中に数日病気で休んだだけでは在留資格違反にすらなりません。仮に課程修了後の話であっても、当時は修了後60日間の出国準備期間(Grace Period)が認められていました。

次回は、それでもESTAの申請画面に出てくる「滞在期間を超えて滞在したことがあるか」という質問にどう答えるべきか、そして空港での入国審査で何が起きうるかを、9月15日施行の新規則にも触れながら考えていきましょう。


朝晩の気温差が大きい季節です。上着を一枚持ち歩いて、また1週間がんばっていきましょうね。

このシリーズを読む

  • 第1回(本記事):数日の「オーバーステイ」とESTA入国(1)_1540
  • 第2回(近日公開予定):ESTAの申請画面と入国審査-数日のオーバーステイをどう答えるか

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